【VOICE】阿蘇カルデラツーリズムのサステナブルな取り組み 阿蘇市経済部まちづくり課 課長 石松昭信氏


阿蘇市経済部まちづくり課 課長 石松昭信氏

「千年の草原」を次の千年に受け継ぐために…

 阿蘇くじゅう国立公園の阿蘇には、噴煙を上げる阿蘇中岳を中心に阿蘇カルデラの外輪山まで、日本最大の面積を誇る草原が広がります。阿蘇市には、2022年の統計で年間約476万人の観光客にお越しいただいていますが、草千里や大観峰といった阿蘇の人気の観光地には、四季折々表情を変える草原景観が欠かせません。

 この阿蘇の象徴ともいえる草原ですが、実は純粋な自然ではありません。阿蘇に暮らす人々が、放牧や採草、野焼き等を毎年繰り返し、牧野として千年以上の昔から自然と共存・共栄してサステナブルに守り伝えてきた「二次的自然」が阿蘇の草原です。私たちは、この先祖から受け継いだ資源(たから)に敬意を表して「千年の草原」と呼んでいます。

 しかし今、この「千年の草原」が危機に瀕しています。過去約100年間で草原の面積は半分以下に減少しました。背景には、農業形態やライフスタイルの変化、高齢化・過疎化などのさまざまな要因が影響しており、従来からの方法では持続可能な草原保全が困難になっています。そこで私たちが新たに取り組んでいるのが、「千年の草原」をサステナブルな観光で活用し、草原を保全する方法です。

 まず私たちは、牧野関係者や観光関係者などさまざまな関係者の方々と1年以上にわたり協議を行い、草原の観光での活用が、希少な動植物の宝庫でもある「千年の草原」の自然環境や、あか牛等の放牧等に悪影響を与えないようガイドラインを定めました。

 草原活用の具体的な手法も、専門の研修を受けたガイドが同行し、特別な許可を得て草原に立ち入り、低環境負荷なE―MTBや馬、パラグライダー等を楽しむアクティビティに限定しました。これにより草原への立ち入りによる影響を管理できるとともに、これまで観光で直接的にお金を生まなかった草原が、文字通り高付加価値な「外貨」を獲得する場となりました。コロナ禍後の約1年で海外を中心に400名以上の旅行者に「千年の草原」の尊さ・価値に共感いただき、応援や感謝の言葉とともに、相応の体験料を負担いただいています。この体験料には、草原の保全料(体験料の5%~)も含め、草原を管理する牧野組合等に還元しています。これにより、文字通り観光での草原の活用が保全につながる仕組みとなっています。

 「千年の草原」の長い歴史からみると、私たちの取り組みはいまだ始まったばかりですが、草原をサステナブルな観光で活用する新たな手法により、次の千年も草原を受け継いでいきたいと考えています。

 

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒