廃線をプラスに、高付加価値化
全国にある廃線や未成線の中でも、碓氷峠は特殊である。それは、元々が日本一の急勾配区間であること、専用の電気機関車が用いられたこと等だ。そんな場所で、今年度はサステナブルツーリズムをテーマにチャレンジをした。強く、印象に残っている言葉がある。コーチングを受けながら、「廃線になった10キロ以上の区間をウォーキングコンテンツとして生かしているが、これを全く新しく、作るとなると環境負荷がかかる、というようにも考えられる。廃線になる区間がこれから増えると考えると、活用の在り方としては日本の将来を見ているようにも感じる」と現地でガイドしたときに会話した内容だ。
鉄道の開通がこのまちに多くのメリットを与えてくれた。一部区間が廃止になった事実。それをマイナスではなく、プラスに変えていきたい。廃止から四半世紀が経過した、今だからこそ、観光資源として、高付加価値化することが、大切だと考える。
この場所に残っている人の思いを語り継ぎ、次世代に渡したい。そうすることが、大人たちが地域の子どもたちにできることだ。その過程として、体験型のコンテンツや、保全サイクルが育っていくことも、子どもたちの将来にとって良いものになるはずだ。
身近な大人へのリスペクトは、子どもにとって地域への愛着へ変わる。という視点を教わったことがある。私にとっての身近な大人へのリスペクトは、国鉄に勤め、碓氷峠で機関車を運転していた、祖父だった。だから、碓氷峠の鉄道の歴史に愛着が生まれたのだと思う。きっと、その思いの循環は今に始まったものではなく、脈々とこの地域に続いてきたはずだ。
眠っていた思いや記憶を、確かなものにしていくために何ができるのか。これからは、廃線跡を歩くことから軌道上を「乗るもの」へステップアップする過程で、廃線跡の保全サイクルを確立していく。サポーター制度を創設し、保全活動を定期的に行う。保全サイクルに還元される商品バリエーションを増やし、保線体験をコンテンツ化し販売することを計画している。
暮らす人たちが愛着をもって、大事にしている地域の歴史・文化を、訪れる人たちに伝える。訪れた人たちは、自らのアクションが地域に還元されることを体感し、旅のアクセントとなる。持続可能な観光モデルとして、保全と活用の両輪で進んでいく。次の世代でも、大事にしてもらえるように。自分が過ごす場所として、選んでもらえるように。それが、暮らす私たちにとっても必要だから。