域内の人材を受け入れ「協力隊」に
商店街の活性化へ、独創的な取り組み
観光経済新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの4紙誌は、2022年共同キャンペーン「地域から元気を 地方創生が生みだす未来」を展開しています。今、各地で芽吹いている地域活性化の動きを、観光業、農業、住宅・建設業などの視点でリポートします。
松尾芭蕉と門人曽良が衣を掛けた松
既存の市街地にある商店街が“シャッター通り”と化している状況が見られるようになって久しい。少子高齢化、後継者難、市街地外の大型ショッピングモールの開店など、要因はさまざまである。宮城県栗原市の中ほど、栗駒岩ケ崎にある六日町通り商店街もその一例だ。奥州国道筋の城下町として栄え、戦後は近くの細倉鉱山の従業員でにぎわった通りもシャッターが閉まったままの店が少なくない。そのかいわいに個性派ショップの出店が相次いでいる。画一的なモールとは異なった小さな店が面白さを魅せる商店街。閉まっているシャッターを逆手にとってアートを描くなど、独創的な取り組みを取材した。
栗原市は2005年4月に旧栗原郡の9町1村(築館町、若柳町、栗駒町、高清水町、一迫町、瀬峰町、鶯沢町、金成町、志波姫町、花山村)が広域合併して誕生した。宮城県の北西部に位置し、東西に長い地域となっており、東は登米市、南は大崎市、西は秋田県、北は岩手県に接している。
栗原市の面積は804.97平方キロで、宮城県全体の11%を占め、県内の市町村の中で最も広い。また、人口はおよそ6万5千人で、県全体の約3%を占めている。
同市は、広大かつ豊かな自然環境を有し、西にそびえる栗駒山を中心とする栗駒国定公園は栗駒山頂付近や県内最大の高層湿原である世界谷地等が特別保護地区に指定されており、また、ガンやハクチョウの飛来地として名高い伊豆沼・内沼は、ラムサール条約登録湿地および国設鳥獣保護区で、御岳山、一桧山・田代、伊豆沼・内沼は県自然環境保全地域に指定されている。
土地利用においては、農地が森林に次いで多く、地勢の特長を生かして、古くから農業が盛んな地域だ。しかしながら、総農家数は2020年は5498戸で、2010年の8267戸から10年間で約33%減少している。
また、2020年の水稲の作付面積は9870ヘクタールで県全体の15%を占め、大豆は854ヘクタールで県全体の約8%となっている。近年では、生産が定着してきたズッキーニが県内第1位の産地となっており、パプリカの栽培は全国有数の生産規模となっている。
観光に目を向けると、栗原地域への観光客入込数は、2008年の岩手・宮城内陸地震、2011年の東日本大震災で大幅に落ち込んだが、2019年には約190万人と岩手・宮城内陸地震前の水準まで回復。観光宿泊者数についても、同水準まで戻ってはいないものの、2012年以降前年を10万人上回り推移してきたが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響等から、観光客入込数(対前年比約72%)、宿泊客数(同約52%)ともに大きく落ち込んだ。
県内他地域との比較では、観光客入込数は最も少なくなっているが、豊かな自然を生かした観光資源が豊富にあり、イワガガミ平・栗駒山およびその周辺施設には例年多くの観光客が訪れている。栗原地域の魅力を発信し、できるだけ長く滞在してもらうための取り組みが必要な状況である。
こうした中、栗原市では、観光ポータルサイト「ぎゅぎゅっとくりはら」で栗原市の魅力を最大限に発信し、“栗原市に、来てけらいん”と呼び掛けている。“来てけらいん”は「ぜひ来てください」とした方言とのことで、なんとも温かみを感じる言葉だ。
栗駒山は、花の百名山の一つ。春の新緑に始まり、夏は登山、秋は紅葉、冬の雪景色と四季折々の美しい自然美を堪能できる。栗原市と登米市にまたがる東北最大の低地湖沼である伊豆沼・内沼では、例年、ハスの開花時期(7月下旬~8月下旬)に「はすまつり」が開催される。秋の終わりになると遠くシベリアからたくさんの渡り鳥がやってくる。また、浅布渓谷は迫川上流に約1.6キロにわたり連なる渓谷で、春の新緑や秋の紅葉シーズンには絶景スポットとなる。宿泊施設も温泉地を中心に充実しているとのことだ。
”食”においては、栗駒耕英地区は日本イワナ養殖発症の地。栗駒山麓の清水が育むイワナは身の締まりがよく美味とのことだ。また、昼夜の温度差が大きい環境から評判のそばの産地となっており、新たな郷土料理として、「そばだんご」を提供する。栗原市ならではの味覚として、市内の飲食店、旅館で食べることができる。
自然を中心とした、栗原市の魅力発信で、市を挙げた観光客の誘致に力を注ぐ。
情報の拠点でもあるカフェ「かいめんこや」
栗原市では市民協働として、平成26年度から地域おこし協力隊制度を活用している。地域おこし協力隊とは、人口減少や高齢化等の進行が著しい地方において、地域外の人材を積極的に受け入れ、地域協力活動を行ってもらい、その定住・定着を図る。このことで、意欲ある都市住民のニーズに応えながら、地域力の維持・強化を図っていくことを目的とする。
市では、地域おこし協力隊員の市内定住促進を図るため、市内で起業する隊員に対し栗原市地域おこし協力隊起業支援補助金を交付している。
現在では全国から14人が八つの業務において、地域おこし協力隊として活動している。
この一つが栗駒地区「六日町通り商店街シャッター開ける人!」業務である。年々空き店舗が目立ち深刻な問題となっている商店街に対し、協力隊はけん引する人材の育成と魅力ある店舗づくりにより商店街の活性化を図る。さらに、同様の問題を抱えている市内の商店街への先駆的な取り組みも進めている。
こうした取り組みから、六日町通り商店街は、移住者が店をオープンさせる例が増えて、注目を集めている。
同商店街の歴史をひも解くと、江戸時代には既に市が立っており、にぎわいを見せていたという。近くには、奥の細道で松尾芭蕉と門人曽良が当地に立ち寄って休息した際に、衣を掛けたという松の木もある。
戦後、近隣にある細倉鉱山の活況から、商店街は全盛期を迎え、約100店舗が軒を連ねていた。しかし、1987年の鉱山閉山によって人口が減少し、商店街も店の撤退が進んだ。さらに、2007年には鉄道(くりはら田園鉄道)が廃止され、最寄りの栗駒駅もなくなって、衰退が加速。100軒以上あった店舗は半減した。
危機感を持った商店街の役員が、活性化を目指して15年前に「みんなでしあわせになるまつり」を企画。昭和時代の旧車を集め、街も人も活気にあふれていた昭和のころの商店街を再現し、にぎわいを取り戻すイベントとして、毎年開かれている。
2015年4月には、六日町通り商店会、栗駒鶯沢商工会、栗原市が協力して、商店街の活性化プロジェクト「地域おこし協力隊」を進めている。2019年には、まちづくり会社「六日町合同会社」が設立されている。
同社の代表を務める杉浦風ノ介氏は、活性化のキーマンである。地域おこし協力隊が設立された同じ年に、薬店だった明治中期建造の古民家を改装し、カフェ「かいめんこや」をオープンさせた。「かいめんこ」とは、この薬店で販売していた「開明香(かいめいこう)」という軟こう目薬が評判で、地元では「かいめんこやさん」と呼ばれ、愛用されていたことから名付けたものである。
かいめんこや・杉浦風ノ介氏
杉浦氏は、地元ではなく京都府の出身。母親が市内の展示施設「風の沢ミュージアム」(古民家を生かした美術館、ギャラリー、カフェ、里山公園などからなる複合施設)を運営する縁で2005年ごろに移住した。昭和の面影が残る建物が連なる商店街に魅力を感じ、人と情報が集まる場所としてカフェを開店したのだという。
そして、自分のカフェのみならず、商店街を活性化させたいとの思いから、商店会の役員に就任。カフェをハブとして、他の店主と情報交換を行い、地域おこし協力隊員と商店街の空き物件を調査し、移住者に紹介した。六日町合同会社では、空き店舗に試し出店ができるシェアショップ「だいたい十三里商店」をカフェ近くの「六日町ナマケモノ書店」内で2020年から運営し、開業希望者向けに講座を開催している。宮城県の補助金を活用して、ハードとソフト両面から起業を支援する仕組み作りを進めてきた。
協力隊ができた2015年以降に新規出店した店舗は16件。シェアショップは現在、10店の店主が参加している。店の種類はさまざまで、カフェや文具店、ジーンズショップ、ネコをテーマにした雑貨店などが点在する。
課題は来客数が少ないこと。移住者による新店舗の多くは休日営業が中心で、平日は閑散としている。シェアショップへの出店を経て本格開業に至った例も少数だ。
そこで、仕掛けを行い、人が来てくれる工夫を凝らす。例えば、7月に行われる「くりこま山車まつり」は、毎年地区ごとに新作の山車を作るなど、街を挙げて盛り上がる。ちょうちんの灯りが幻想的な「くりこま夜市」も、名物の祭りだ。
さらに、商店街のにぎわいを求めて2020年にシャッターアートを企画。地元の岩ケ崎高校の生徒たちが絵を描き、彩りを演出する活動は現在も継続しており、閉店時でも“にぎやか感”が出る工夫を凝らした。買い物客や観光客が楽しめる要素の一つになっている。高校生が商店街に関心を持ち、卒業後に店を開きたいと考える人が出たらとの期待も込められているとのことだ。
杉浦氏は、地元の人に密着化を図り、常時来てもらうようにしたいという。そのためには交流関係を広げ、関係人口を増やすことを目指す。コワーキングなど移住者を増やす施策を進めること。地域独自のコンパクトシティ実現が期待される。
商店街の近くには、栗駒特産物直売センター「山の駅くりこま」がある。地元栗原市の四季折々の野菜や山菜、果樹、加工品などが取りそろえられており、同センターと連携しての客寄せも一考といえるかもしれない。