【2021新春トップ座談会】楽天トラベル × じゃらん × 一休 × JTB


「安心・安全」が旅の大前提に Go To 開始で全国に光明

 コロナ禍で壊滅的な打撃を受けた旅行業界。ただ、2020年7月末に始まったGo Toトラベルキャンペーンで、少なくとも11月末までは一定の回復基調にあった。なかでもGo Toの恩恵を最も受けたのは国内OTA各社だったのではないだろうか。国内OTA3社のトップとJTBのWeb販売部長に各社の現状と今後の方向性を聞いた。(11月25日・東京都中央区のロイヤルパークホテルで)

【出席者(順不同)】

盛崎宏行氏(JTB 執行役員Web販売部長)

榊 淳氏 (一休 代表取締役社長)

髙野芳行氏(楽天 執行役員コマースカンパニー トラベル&モビリティ事業長)

宮本賢一郎氏(リクルートライフスタイル 執行役員旅行領域担当)

司会=本社企画推進部長 江口英一

 

20年の市場 各社の状況

 ――JTBのウェブ販売事業にとって2020年はどんな年だったか。

盛崎氏

 

 盛崎 20年は年初からのコロナ禍で旅行需要が激減し、続いて緊急事態宣言が発令され、人流が消滅するというかつてない経験をした。7月末からはGo Toトラベルキャンペーンが開始され、8月から10月までの販売は大きく伸びたが、劇的な環境変化に対応した1年だった。「安心・安全」が旅の大前提となり、お客さま、地域の皆さま、宿泊施設の皆さまとコミュニケーションを継続する中でJTBブランドに対する期待、その半面責任を実感した。

 振り返ると、1月末にるるぶトラベルを全面刷新した。当初は課題もあり、宿泊施設など関係機関の皆さまにご迷惑をお掛けしたが、日本マーケットへの最適化をテーマにアゴダと連携を深め、課題解決に取り組んだ。Go Toトラベルキャンペーンが始まってからは大きく販売を伸ばすことができている。まだ道半ばではあるが、大きな成果があると実感している。

 またJTBホームページについては、5月に航空付き、10月にJR付きとダイナミックパッケージの販売強化を目的とした刷新を実施した。特に10月の機能強化は、Go Toトラベルキャンペーンの東京発着開始と地域共通クーポンの配布開始時期とも重なり、販売実績を大きく伸ばすことができている。

 

 ――一休の20年は。

榊氏

 

 榊 一休はZホールディングスのグループ会社で、宿泊施設と飲食店の2種類の予約事業を行っている。楽天、リクルートは多様なビジネスを展開されているのでよくご存じだと思うが、この二つの業界は最もコロナ禍の影響を受けた分野だ。90%減、95%減ということが現実に起こったが、緊急事態宣言が解除された5月25日から後の高級宿泊市場の戻りは極めて早く、正直言って驚いた。高級旅館や高級リゾートホテルの人気が高かった。ステイホームに疲れた顧客層の海外旅行ニーズが国内市場にシフトしたと分析している。7月下旬からGo Toトラベルキャンペーンが始まり、この動きがさらに加速した。ユーザーの消費センチメント(市場心理)が落ちているときにGo Toトラベル政策を投入してもあまり効果がないが、盛り上がっているときに開始したため、非常に効いたのだと思う。

 20年の業績だが、4~6月はもちろん厳しかったが、7~9月には前年並みに戻った。そして現在も伸びている。20年度は19年度をなんとか上回る成長を遂げられそうだ。

 Go Toは感染拡大リスクを高めるのではないかという懐疑論も存在するのはもちろん承知しているが、プラスの側面が極めて大きいことは強調しておきたい。先日、愛媛県の砥部町という人口2万人の町に宿泊したのだが、町中のスーパーで地域共通クーポンが紙も電子も両方使えた。毛細血管の先の先までGo Toトラベル事業が浸透していることを実感した。経済対策という意味で、本当に効果の高い政策だと思う。

 

 ――楽天トラベルの20年は。

髙野氏

 

 髙野 当然ながら非常に厳しい、激動の1年だった。一方で、宿泊施設との関係や社内の一体感をより強めることができた1年でもあった。緊急事態宣言の直後は、私たちも売り上げ9割減などの事態に直面した。そうした中でも、いま自分たちにできることをしっかりとやっていこうと決めて、いくつかの取り組みを行った。

 最初に実施したのは、宿の資金繰りを支援するための入金の早期化。事前カード決済やダイナミックパッケージは楽天が集金して宿泊施設に入金するわけだが、その入金タームをできるだけ短縮させていただいた。

 2点目は、「セキュア・トラベル」、つまり安心・安全な旅行を推進していく取り組み。旅行者が宿に求める感染症対策を楽天トラベルが36項目にまとめ、各宿泊施設にアンケートをとった上で、その結果をウェブサイト上に表示した。

 3点目は「レスキュー・ホテルプロジェクト」。日本を救うホテルという意味で名付けた。コロナ禍の初期の段階では、医療資源の確保の必要性が叫ばれており、その社会的課題に対応するために、軽症者や無症状者の受け入れが可能な宿泊施設を募った。数十の地方自治体と連携して、現場のオペレーションマニュアルも作成した。受け入れ施設の風評被害対策なども楽天トラベルで引き受けた。最終的に800軒以上の宿泊施設の皆さまから受け入れ可能とご回答をいただいた。

 4点目はSNSを活用した「おうちで旅体験」プロジェクト。ハッシュタグとともに宿や観光地の素敵な写真や動画を、インスタグラムなどで拡散してもらい、「コロナが収束したら旅行に行こう」という機運を盛り上げる仕掛けを行った。

 旅行需要が落ち込んだ半面、楽天グループ内では楽天市場などのECや金融が伸びた。そのような中でGo Toが始まり、旅行需要が徐々に回復していく中で、楽天経済圏のユーザーにトラベルのご利用を促すこともできた。

 

 ――じゃらんの20年は。

宮本氏

 

 宮本 皆さんも同じだと思うのだが、1年前のこの座談会の場では全く予想もしていなかった未来になったなと感じる。特に上半期のコロナ禍は、観光産業そのものが吹き飛ぶかもしれないと思わせるほどのインパクトがあった。リクルートも旅行分野だけでなく、さまざまな分野の売上収益で非常に大きく影響を受けた。

 じゃらんリサーチセンターが毎年行っている宿泊旅行調査の定点観測によると、3月の旅行者数は前年同月比57%減。4、5、6月の数字は集計中だが、それ以上の減少幅だろう。リクルートの旅行事業の4~6月の売上収益は前年同期比65.3%減だった。緊急事態宣言が解除され7月後半からはGo Toも始まり、夏の需要も少し盛り返した。7~9月は同26.3%減まで回復した。10月以降は、Go Toの東京除外が解除されたこともあり、東京から地方に旅行する人は戻りつつあったが、今後の感染拡大状況は不透明であり、予断を許さない状況にあることには変わりがない。

 トピックスとしては、旅行情報誌「じゃらん」が20年1月におかげさまで創刊30周年を迎えた。「JALAN」の真ん中の「L」には「JAPAN(日本)」の真ん中にレジャーがあるという意味が込められている。創刊以来、日本各地の魅力をとらえて、宿泊施設も含め全国に発信してきた。読者、じゃらんnetユーザー、宿泊施設の皆さまに感謝を申し上げたい。

 コロナ対策関連で申し上げると、楽天と同様に、各宿泊施設の感染予防に対する取り組み状況をウェブページの基本情報の中で確認できるようにした。感染対策として行っていることを明示的に表現できるピクトグラムの提供も行っている。「新しい旅のしおり」という動画を制作し、旅行者に対して「しっかりとした感染予防策をとって旅に出てください」というメッセージも発信している。

 ここにいらっしゃる皆さん全員だと思うのだが、業界を挙げてコロナと対峙(たいじ)した1年だったと思う。

 

 ――各宿泊施設の感染予防に対する取り組み状況のウェブサイトへの掲載、公開は、るるぶトラベル、一休も行っているのか。

 

 盛崎・榊 行っている。

 

 宮本 2020年は、新しい生活様式、ニューノーマルといった言葉に象徴されるように、旅行者の行動変容が起こった1年だった。旅行者が何を気にしているのか、求めているのかを把握し、提示しておくことは非常に重要だ。表現方法に多少の差異こそあれ、各社とも取り組んでいることなのだと思う。

 

各社の取り組み 21年はこう動く

 ――JTBウェブ販売事業の21年の取り組みは。

 

 盛崎 JTBは4月に山北栄二郎が社長に就任し新たな体制で動きだした。11月に発表した中期経営計画では、「デジタルの基盤」の上に「ヒューマンならではの価値」を生かして、旅行者の実感価値を高める「新」交流創造ビジョンを掲げた。スマートデバイス起点でのOMO、つまりオンラインとオフラインを融合したシームレスな購買体験、そして、旅マエから旅ナカ、旅アトまで続くカスタマージャーニーにおいて、JTBの総合力を生かしたトータルサポートを実現していく。お客さま視点でオンラインとオフラインの垣根をなくし、一体的により良い体験を提供する考え方だ。
この環境下においてカスタマージャーニー上の情報収集から予約行為までをオンライン上で行う比率はさらに高まっている。これまで通りWeb販売に関してはしっかり強化していく。一方、安心・安全というキーワードを考えると、JTBの場合、リアル販売の拠点を保有していることは大きな強みだ。Go Toトラベルキャンペーン開始以降、リアル店舗が盛況で、来店の予約がなかなか取れないという状況が全国で発生した。

 

 ――それはなぜか。

 盛崎 あらゆる世代においてリアル店舗へご来店いただくお客さまが増えている。さまざまな情報を収集したい、旅のプロに直接相談して旅先や宿泊先を決めたいということだと思う。オンラインとオフライン(リアル店舗・コールセンター)、法人事業はもちろんのこと、JTBグループには旅行関係の出版や商事もある。さまざまな角度からお客さまとコミュニケーションを図り、実感価値を向上していくことにトライする1年にしたい。

 もう1点、JTBホームページとるるぶトラベル、二つの旅行予約サイトのコンセプトを明確化して販売強化に取り組む。JTBホームページの具体的なターゲットは、お客さまの購買プロセスにおいて価格のみで購買する商品を決定しないお客さま層だ。「旅にこだわりと安心を」をテーマに、Web販売にリアル店舗・コールセンター機能を加えて、一元化された顧客情報を活用しお客さま接点の最大化、コミュニケーションの最適化を軸に実感価値の向上を追求する。るるぶトラベルは、旅行ガイドブックの代名詞として認知されている「るるぶ」のブランドを冠したサイトだ。JTBの事業ドメインである「交流創造」をテーマに、地域をミクロで捉えてしっかりと情報提供をしながら、「旅を目的から選ぶ場合は、るるぶトラベル」というコンセプトで展開していきたい。

 全国の「47DMC」拠点と連携し、各地域のニーズをるるぶトラベル上に着実に反映させて、お客さまへ価値を提供していきたい。JTBグループの総力を結集し関係機関の皆さまとも協力しながら、お客さまの実感価値を向上させる1年にしたい。

 

 ――一休の21年の取り組みは。

 榊 20年は、Go To効果により初めて高級宿泊施設を予約するユーザーが非常に増えた。リピーターよりも新規顧客がとても増えた。元々はカップルや夫婦のユーザーが多いのだが、最近は母親と娘とか、女性4人グループとか、新しいセグメントが増えている。今まで行きたいと思っていたけれども、なかなか実行に移さなかった行動が、Go Toに後押しされた格好だろうと分析している。これらの新規ユーザーは1回限りなのかというと、実はそうでもない。データを見るとGo To期間中に複数回予約しているケースが多々ある。21年以降の予約も入っていたりする。
コロナ禍のステイホーム疲れの中で、本物の良い旅館に泊まってぜいたくな時間を過ごした人が「これ良いよね」と気に入っていただけたのではないかと思う。今までは海外旅行に出掛けていた層にも「これ良いよね」がますます広がっていくのではないか。21年は、20年に初めて高級宿泊施設を体験した方々に、どんどんリピートしていただき、国内の高級宿泊市場をさらに盛り上げていきたい。

 

 ――Go Toの恩恵で、一休の虜(とりこ)が増えた。

 榊 一休の虜ではなく、高級な宿の良さを知った方々が、高級宿の虜になった。Go To時の値付けは需要も集中しているので、繁忙期に近い値付けだ。今後、Go Toが終了しても閑散期であれば、Go To期間中の実際の支払額とそう変わらない価格設定の時期もあるだろう。従って、Go To後もリピートしていただけると思う。

 

 ――楽天の21年の取り組みは。

 髙野 20年は旅行予約のオンラインシフトが進んだと感じている。21年はさらに進むよう取り組みたい。楽天グループでは、楽天トラベルをはじめとするいくつかの事業で新規ユーザーが増えた。コロナ禍中でオンラインに頼る分野が大きかったことが主な理由だと考えている。
例えば、中国ではコロナ禍で初めてオンラインサービスを使った50代以上の人は、状況が落ち着いた現在も継続的にオンラインサービスを使うようになっており、消費金額も増えているという。オンラインの利便性により、一度理解すれば、さらに消費行動が加速するという実証データも出ている。この現象が日本の旅行業界でも起きるのではないかと考えている。オンラインにシフトした旅行者にご満足いただけるサービスを提供していかなければならないと考えている。

 Go Toの中でも苦しんでいる宿泊施設は多くいらっしゃる。例えば、主要都市などにあるビジネスのお客さまが中心の宿泊施設だ。楽天ではビジネスホテルを対象に、楽天負担でポイントが5倍還元されるキャンペーンを実施している。苦しい宿泊施設を盛り上げる取り組みは21年も継続して行っていく。

 

 ――じゃらんの21年の取り組みは。

 宮本 まず前提として、業界を挙げて感染拡大を封じ込めることと、経済を回していくこと。この両輪にしっかりと取り組まなければならない。各社の取り組みが切磋琢磨しながら、業界全体を盛り上げていくことが大事だ。

 私たちは数年前から日本の旅行需要が減少し続けていることに対して危機感を持っているので、旅行実施率そのものを高めていく取り組みを継続的に行っていきたい。20年3月に「じゃらんステージプログラム」を開始した。利用額に応じてゴールド、シルバー、ブロンズ、レギュラーの会員ランク付けを行い、さまざまな特典を付けるプログラムだが、サービス内容にさらに磨きをかけて、より頻繁に旅行していただけるように仕掛けていきたい。

 また、リクルート全体として、旅行領域に限らず、会計決済サービスである支援の「Airレジ」「Airペイ」をはじめとした業務・経営支援ソリューション系のAirビジネスツールズを拡大していきたい。新しい生活様式のニーズに応えられるサービスだ。「Airウェイト」という受け付け管理システムは、大浴場の混雑緩和にも役立つプロダクトだ。

 

 ――各社のGo Toトラベルの開始日を確認しておきたい。

 盛崎 7月27日の初日からだ。

 榊 一休での開始は7月30日だが、セールは7月10日から始めていた。ヤフートラベルは7月27日に開始した。

 髙野 7月30日。

 宮本 7月30日だ。

 

ウィズコロナ 生活に変化は

 ――最後にプライベートについて伺いたい。コロナ禍で普段の生活にどのような変化があったか。

 

 盛崎 登山が趣味なのだが、コロナ禍で閉鎖されている山小屋も多く、今年は登る機会はなかった。秋に初めてキャンプへ行ったが、たき火とキャンプ料理に魅了された。地元の食材を現地調達し、たき火を囲んで食べながら過ごした時間は、コロナ禍ではありながら癒やしのひとときだった。旅の目的となるコンテンツとして、今後各地域の皆さまからも情報を収集していきたい。生活の変化としては、公共交通機関を避けて自転車で通勤することが増えたこと。運動不足の解消にもなっている。

 

 ――榊さんはロードバイク乗りだ。

 榊 そうだ。でもコロナが落ち着いていた頃はとにかく旅行に出掛けていた。今週は磐梯山、来週は鬼怒川温泉といったように、自分が行きたい宿にどんどん泊まりに行く。距離によって車で行ったり、飛行機で行ったり。以前は月1回ぐらいの頻度だったが、Go To開始後は2週間に1度ぐらいの頻度で宿に泊まっている。

 

 髙野 20年から楽天デリバリーや楽天リアルタイムテイクアウトという飲食業関連の事業も担当している。テレワークが続き、あまり体を動かさなくなったので、テイクアウトに自転車を使っている。毎晩数キロを自転車で走り、自分で注文した食事をテイクアウトしている。実際に飲食店の方に会い、お話をして注文することもある。また、サウナが好きなので、地方のサウナに行くこともある。楽天トラベルにご登録いただいている宿泊施設の皆さまの中には、素晴らしいサウナ設備をお持ちの宿が多くある。

 

 宮本 リモートワーク、つまり在宅勤務が中心の生活になった。密を避けることを心掛けて生活している。ゴルフとテニスの運動習慣は続けている。ゴルフは、じゃらんnetのサービスの中でも落ち込んだ後、一番早く回復した。密になりにくい環境のスポーツなのだからだろう。ゴルフには比較的早い段階から出掛けるようになった。

 

 

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