【駅メロ とわずがたり 10】JR郡山駅 GReeeeNがつなぐ復興への希望 藤澤志穂子


 現役の歯科医師による匿名の音楽グループ「GReeeeN」のメンバーは、福島県にある歯科大学で出会った。その縁から代表曲「キセキ」「扉」が2015年からJR郡山駅の発車メロディーで流れている。音源はメンバー自ら制作したほど「郡山愛」は強い。

 そんなGReeeeNの思いは、東日本大震災からの復興支援にもつながっている。今年も3月11日に郡山駅前で行われる「復興の灯火」プロジェクトは、江戸時代から地域に伝わる海老根伝統手漉(てすき)和紙に、鎮魂や将来への希望を描いた灯籠に火をともすイベントだ(写真は昨年3月の開催、郡山市提供)。震災の記憶と伝統文化の継承が狙いで、初回2019年の時には、リーダーのHIDEさんらメンバーが「おーい 元気だよー あなたに届け」など直筆メッセージを書いた灯籠を寄贈した。駅前には「緑の扉」のモニュメントと、メンバー4人の手型やメッセージを刻んだレリーフがある。

 HIDEさんは震災時、歯科医師として検死にも立ち会った。未曽有の災害を前に「音楽は無力ではないか」と葛藤したが、被災地で「キセキ」を聴く人たちを見かけて思い直した、とTBSの番組で話している。福島第一原子力発電所の事故により、避難した地域の皆さんが故郷に帰れるめどは立たない。ゴールの見えない復興に希望はあるのか。GReeeeNは震災10年の2021年に復興のテーマソング「蕾(つぼみ)」を発表、「人間は揺れ動きながらも徐々に前に進んでいる」「(皆さんの心の)蕾が、いつか咲く花になれば」との思いを込めたという。震災を思う全ての人に寄り添う歌だ。

 「復興の灯火」には郡山女子大学短期大学部が参加、薄れゆく震災の記憶を若い世代につなぎ、NPO法人が復興住宅で灯籠のワークショップも行うなど輪が広がっている。ウェブ上の木の葉一枚一枚に誰もが応援メッセージを書き込める「復興ツリー」のサイトも設けられた。「GReeeeNの皆さんが寄り添って、発信して下さることもあって、全国に『仲間』が増えました」と、担当の郡山市国際政策課の星里枝さんは感謝する。

 郡山市は「楽都」との別名を持つ。工業都市として発展する一方、暴力団抗争が起きたが市民運動で追放、音楽家の山本直純らが市民音楽祭を成功させた実話は映画「百万人の大合唱」(1972)に詳しい。1974年にはオノ・ヨーコさんら多くのミュージシャンが参加した、国内初とされる大規模な音楽フェス「ワンステップ・フェスティバル」も開かれた。

 福島出身の作曲家、古関裕而をモデルにしたNHK連続テレビ小説「エール」(2020)でGReeeeNは主題歌を提供、福島を代表するグループと認識されるようになった。来年2024年は郡山市制100周年。メンバーをアマチュア時代から知るライブハウスオーナーの福井公伸さんは「一緒に何かやれたらな」とアイデアをめぐらせている。

 ※元産経新聞経済部記者、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。

 
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