東京は23区のはずれ、JR中央線・西荻窪の駅前でフランス料理店を68年経営している。
私で2代目。創業は戦後すぐ。本来、料理人出身者が多いこの世界で、父も私もコテコテの商人を自負している。
食料難のあの時代に父がなぜこの料理の世界に飛び込んだのかずっと考えていた。おそらく、大変な時代だからこそ料理を介して人との付き合いの世界で生きようと決めたのではないだろうかという思いに達した。
過去を顧みるといろいろな人が出入りし、いろいろな経験をさせていただいた。
その原点になったのは、たまたま、当地を疎開先として多くの文化人が住みつき、戦前の西欧への憧れからか、いつの日かたまり場のような存在となって、時には酒を酌み交わし、ある時は夜遅くまで議論に花を咲かせるような場となった。
世の中の景気もまだ回復していないころ、この人材を埋もれさせてはいけないという思いで、文化講座に近いものをはじめ、それが「カルヴァドスの会」という名をもらい、当店主催の看板の会となった。
今では、父も含めほとんどの方が他界され、詳細を聞くことはできないが、その意思はいま私たちが、地元の方々に還元する形で受け継いている。
将来が読めない時代だが、お店というものはわれわれが創り、お客さまが創ってくれるものだとの父の思いから、次の世代に受け継いでくれることを期待し、西荻の地でこれからも地道に歩んでいこうと思っている。
(国際観光日本レストラン協会理事 こけし屋店主、大石剛生)