【道標 経営のヒント117】旅館の料理教室 福島規子


 モノを買うのではなく自ら行動し、そこでしかできない体験を消費することを「コト消費」と呼ぶ。最近、外国人に人気なのが、和食の料理教室だ。外国人観光客だけではなく、在日外国人客向けの教室も話題だ。

 いまや料理教室は大きく様変わりをしており、独身女性の花嫁修業や育パパや定年後の男性を対象とした「習い事」の域に留まらない。

 たとえば、東京と京都で和食の料理教室を開催する「Cooking Sun」には旅行代理店向けの商品があり、外国人のグループ客やMICEのアクティビティといった団体客を、積極的に受け入れている。

 また、刃物で有名な貝印も外国人観光客向け和食体験教室「Kai House JAPANESE COOKING」を展開している。食べるだけではなく自ら料理をすることで新しい発見や楽しみに気付いてもらうのが狙いだ。キッチンスタジオは秋葉原にあり、費用は2時間7千円。巻き寿司や胡麻和え、だし巻き卵といった家庭料理を作る。

 さらに、同社では外資系企業やグローバルに事業を展開している日本企業向けにチームビルディングの研修プログラム「Japanese Cook Off」を商品化している。チームに分かれて和食を作ることで社内のパフォーマンスを向上させ、オープンな雰囲気づくりや異文化理解が促進されるという。

 なるほど。地方の旅館が外国人観光客向けの料理教室を実施するのは難しいが、このような研修プログラムであれば国内企業向けに実施することも可能だ。ただし、「旅館の料理教室」企画では「プロの料理人が教える和食の真髄」などとうたって料理の仕方を教えるのではなく、料理人は各チームが作った料理の判定人に徹するのがミソだ。

 この企画で、参加者が腕を振るうステージは大規模あるいは中規模旅館の調理場だ。巨大冷蔵庫に入った地元の食材を存分に使い、温蔵庫や真空調理といった業務用機器も使い放題でチームごとに料理を作る。仮に参加者を30人とした場合、1チーム6人で5チームがそれぞれ一品ずつ32人分の料理を作れば、5品160個の料理が一気に並ぶ。巷の料理教室では絶対に体験できない圧巻の光景だ。

 器も季節のあしらいも厨房にあるものを自由に使い、料理人気分を味わえることも旅館の料理教室ならではの醍醐味と言えよう。料理長と女将らが出来上がった料理を審査し、最優秀作品は人気のレシピ動画サイトにアップされるという特典がつけば、企画の注目度も上がることだろう。

 宴会を主とした団体客が激減する中、本企画は社員同士の結束力を高めるという点でIT関連のベンチャー企業からも注目を集めることになるだろう。

 ただ、現場からは即刻「厨房開放なんて無理」という声があがるだろう。しかし、プロ仕様の厨房を開放してこそ、他とは違う「コト消費」が提供できるのだ。また、厨房開放を決めてしまえば調理場内の整理整頓が進み、職場改善につながるといった副産物も期待できる。地域の名物料理が誕生すれば、なおうれしい。

 
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