【道標 経営のヒント 290】橙の色が誘う夏の風物詩 小倉理加


 毎年、わが家では夏になると実を赤くしたほおづきと朝顔の彩りが目を楽しませてくれる。ほおづきは、愛宕神社の縁日で手に入れる。昨年は取りやめとなったが、今年は6月23日と24日に規模を縮小して、「千日詣り ほおづき市」が無事に行われたため、今、玄関では2年ぶりに、たわわになった実が、オレンジに色づくのを待っている。

 ほおづき市が始まったのは、江戸時代といわれている。当時、ほおづきは水で丸飲みすれば、大人なら持病が治り、子どもならお腹の虫が退治できるとされ、病気平癒の民間信仰の対象だった。今でもほおづきの地下茎は酸漿(さんしょう)の名で漢方薬として咳止めや解熱、利尿薬として利用されている。

 かなり古い時代に日本に伝わってきたようで、「古事記」の中で、八岐大蛇の目の色をほおづきに例えている件がある。呼び名は、「あかかがち」と記されている。「枕草子」や「源氏物語」の「野分けの巻」にも愛らしい植物として登場しているのだ。その時には、すでに「ほほづき」という呼び名が一般的だったようである。

 この名前の由来が面白い。諸説あり、赤く染まった頬を連想させるからという説や、ホホというカメムシが付きやすいことから「ホホ付き」が転じたという説。実を口の中で鳴らす遊びから「頬突」となったという半信半疑の説から、「文月」が「ふうづき」となり「ほうづき」となった説までバラエティに富んでいる。有力なのは、実の色が火を連想させることから、「火火着」になったというもの。火はホと呼んだのだ。愛宕神社の主祭神が火の神ホムスビノミコトのため、火を連想する植物を夏の厄落としの縁起物にしたのかもしれない。

 漢字で書くと「鬼灯」。「鬼」とは、死者のことを指す。お盆の頃には、先祖たちが迷わず戻ってくるための提灯として飾る風習が残る。花屋でも、その頃にはオレンジに熟したほおづきの枝や籠盛りになった実が売られているので、今年は厄落としも兼ねて飾ってみてはいかがだろうか。夜の暗闇で見ると、なるほど温かな灯りのように幻想的に見えて、なんとも風流だ。

 オレンジの観賞用のほおづきの他に、8月から10月には食用も出回る。今では、スーパーフードの仲間入りを果たし、美容と健康によいと注目されている。脂肪肝や動脈硬化の予防にもよく、美白効果やシワ、たるみの改善も期待できるそうだ。

 コロナ禍以前なら、今日は浅草寺の「ほおづき市」の予定だった。7月10日の「四万六千日」という観音様の縁日とともに前日の9日から行われる夏の風物詩だ。残念ながら、ほおづき市は2年続いての中止となったが、「四万六千日」の法要は行われるそうだ。約126年分の御利益があるという。

 
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