【道標 経営のヒント 262】癒しのヴァイオリン コンテンツキュレーター 小倉理加


 会場に沸く拍手喝采に、満足そうな人々の笑顔。会場を去る観客たちの間では、今幕を閉じたばかりのコンサートについて興奮して感想が交わされた。今年、デビュー25周年を迎えたヴァイオリニスト、五嶋龍の全国ツアーでの一夜だ。五嶋はコロナ禍の中で、プラットホームありきの音楽は弱者に甘んじるしかないのかと、延期や中止を考えたそうだが、来年はよりよい年になるようにという思いを込めて、演奏会の開催を決めたという。

 ツアーで配るプログラムにも、3曲しか掲載されていない。急に1時間で終わる演奏会にしなければならない事態になっても対応できるよう、絶対に演奏をする3曲に絞って掲載したようだ。

 この日は、埼玉県の東所沢に誕生したばかりの「ところざわサクラタウン」の中にあるホール。主催のKADOKAWAがオープンしたばかりの文化拠点である。都心部からは離れた場所のため、集客が心配されたが、すぐに満席となったそうだ。

 今年、彼のコンサートはすでに3ツアー中止になっているので、久しぶりの舞台だったはずである。選曲は、コロナと戦う医療従事者へ捧げるイザイ作曲「ヴァイオリン ソロ ソナタ6番」や、このツアーのために岩代太郎が書き下ろした、福島の原発事故を主題にした映画音楽「The50」など、音楽で勇気づけたいという気持ちが伝わってくるものばかり。演奏も、曲によって異なる魅力を見せた。ソロでは何台ものヴァイオリンが奏でるように。ピアノと一緒の曲は、ハーモニーを大切にしている。一瞬にして舞台に引き込まれる情緒あふれるメロディーはもちろん健在だった。

 今は、さまざまな動画配信でプロの演奏に触れることはできるが、やはり本物の舞台は絶対的に違う。空気の震え方、息遣いなどは、リアルを超えられない。だからこそ、このような時代でも、人は集まる。かつて、ペスト感染に直面していたヨーロッパにおいてルネッサンスが花開いたように、今だからこそ多くの人の心に響くのかもしれない。

 ちなみに、個人的に五嶋のおすすめは、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」である。先日、取材で知ったのだが、心理学者によれば、チャイコフスキーは悲しい気持ちに寄り添ってくれる音楽だという。甘美なメロディーラインと伸びやかな演奏が絶妙に合って、聴いている間は思い切り泣けて、聴き終わった後にはカタルシスを感じて、すっきりするはずだ。

 今年は、チャイコフスキー生誕180周年。名曲を名演奏で聴くのに、これ以上ぴったりの年はない。インターネットでも演奏動画は簡単に探せるので、泣かずにいられないときにはだまされたと思って、ぜひ耳を傾けてみてほしい。

 
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