【道標 経営のヒント 252】ゆくりと動き出した旅館 佐々山建築設計社長 佐々山 茂


 コロナ禍の渦中に、少し落ち着いたら伺いますと話していた数軒の旅館に、9月に入ってから伺い、生の声を聞きました。

 5月25日に緊急事態宣言が解除された後、旅館は6月、7月と縮小して営業を始め、8月はGo Toトラベルの効果もあって一息ついたようですが、9月以降は今まであった団体がなくなり、大型旅館はまだ先が見えないようです。当面の資金繰りを確保し、雇用調整助成金で雇用を維持しているところが多く、この状態がまだ続くものの、皆さんこれからの自館の在り方に思いを巡らせていました。

 宿泊産業全体でこれほどの影響を受けたのは初めてですが、今回のコロナ禍はいずれ終焉(しゅうえん)し、宿泊産業が国の基幹産業となり、成長を期待されていることに変わりはないのです。
 20年前から起きている個人化の流れは今回のコロナ禍で一気に進み、5年、10年の変化が1年で起きたようなもので、これに対応することは大変な作業となります。

 お風呂場で3密を回避するためにいろいろと工夫されていますが、同時に利用する人数が意外に少なく、脱衣かごを半分にしても問題がないことから、かごや洗い場が必要以上に多いことが分かります。団体向けに造られた脱衣室、浴室の設備を思い切って個人向けに切り替える良い機会で、貴重な温泉資源の有効利用やエネルギーコストの削減にもつながります。

 3密で最大の問題になるのが食事ですが、旅館の換気設備はコロナ禍で十分な機能があるところは少なく、食事会場も人数を制限して席を離す必要があります。今まで1回転で集中して食事提供をしていたのを、1.5~2回転に分散すると施設効率、サービスの人手、調理への負担も減ります。食事の予約制をお客さまに受け入れていただく良い機会です。また一定数を超えた分は地域の食に依存するなどの割り切りも必要だと思います。

 個人客に選ばれ、滞在型にするには客室以外に心地良い居場所が必要で、その施設が持つ景観や人といったお金で評価できない資本財を生かすことがその施設の価値を上げます。縮小営業で受け入れの人数を減らす中、社員も少ない人数で運営することの重要性も身をもって理解したと思いますし、チェックイン、チェックアウト、部屋の掃除の手間が省ける滞在客が常に20%程度あると労働生産性も上がります。

 社長と話をしていて、分かるけれどこの時期に行動に移すのは大変、という顔をしていますが、「いつやるか? 今でしょ!」と思います。

 
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