【道標 経営のヒント 230】日本とフランスの夢を開く扇 コンテンツキュレーター 小倉理加


 新型コロナウイルスの感染で動揺が広がる中、日本で新たなキャリアを築こうとしている1人の若者がいる。若者といっても、フランス人間国宝(メートル・ダール)の称号を持つ、世界的に知られる職人であり、アーティストのシルヴァン・ル・グエンだ。

 フランス人間国宝とは、1994年に日本の人間国宝認定にならって、フランス文化省により設けられたもの。2017年秋に、上野の東京国立博物館の表慶館にて15名のフランス人間国宝たちにより、大規模な展覧会が行われたので、ご存じの方も少なくないだろう。そのとき、カタログの翻訳をお手伝いしたご縁もあり、主催者の女性と交流がスタートしたことから、今回の挑戦を知ることになった。

 シルヴァンは、本当に桁外れにすごい人物だ。分かりやすい例を挙げると映画「マリー・アントワネット」や「シンデレラ」の中で繰り広げられる、きらびやかな宮殿の世界の一端を担っているのが彼の豪華な作品だ。デザイン性だけならず、昔の扇子を修復する腕も持つ。世界にある扇子美術館の監修も行っている。

 すでに思いのままに成功を収めているように見える彼だが、扇子のルーツである日本で、日本の伝統技を取り入れた新たな作品を作りたいと、関西に拠点を移すと決めた(彼は関西の親善大使にも選ばれたようだ)。すでに京都でのコラボレーションは、随分前から進行し、具体的な展開も決まった。その準備や百貨店での展示会もあって、彼はこの2月に来日した。

 3月頭、その機会に、さらなる可能性をと思い、関西からも東京からもアクセスがよい、金沢の職人技を一緒に尋ねた。金沢には、第二の母と慕う心強い女性がいるため、彼女を頼っての訪問である。今まで、仕事でもプライベートでも数え切れないほど通った金沢だったが、今回、改めて知ることも多かった。

 いろいろ見た中で、彼がもっとも興味を示したのは、意外にも水引だった。早速、現在5代目、6代目が活躍する「加賀水引・津田」へ案内してもらった。津田水引の6代目は、「自分たちが守らなければ、正当な水引の文化が消えてしまう」と説明にも熱がこもる。歴史的な資料も見せていただき、水引は、装飾的なものだけではなく、もっと精神性が高いものであることを知り、シルヴァンは感動したようだ。結び方に男女の違いがあることも知り、驚いていた。

 「意味があるものだからこそ、取り入れる価値がある。自分の扇子もメッセージを込めているから」とシルヴァンは言う。

 3月半ば、彼は再訪を誓って帰国した。6月に日本で新たな人生を始める予定だ。彼の扇子が晴れやかに開く日が早く来ることを祈るばかりだ。

 
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