【道標 経営のヒント 216】旅館と水資源 佐々山建築設計社長 佐々山 茂


 先日、所用で瀬戸内海の西側でビジネスホテルに泊まり、フロントで薦められたお寿司(すし)屋で夕食をとった。主人おすすめの牡蠣(かき)をペースト状にした珍味はモスグリーン色をしていて、牡蠣は沿岸で育つので、山のミネラルで緑色になると、うんちくを話してくれた。

 瀬戸内海の魚は旨いね!と褒めると、最近は山から流れ出すミネラルが減って、昔と違い、取れる魚の種類が減ったと初老の主人は嘆いた。瀬戸内海の鯛(たい)は流れが緩やかで脂がのって柔らかいが、日本海側の鯛は身がしまっているとも言う。水の話が続き、先日の台風では自宅からそれほど遠くない多摩川でも浸水被害があったと、寿司屋の主人と思いがけず水議論で盛り上がる。

 後日、富山でその話をすると、富山湾は立山からの水とミネラルの多い海洋深層水で魚が育つと地元の人は自慢げで、確かに出された刺し身は種類も豊富で旨かった。

 太陽が水を蒸発させ、木の葉っぱから蒸散した水蒸気は空で雲となり、やがて雨となって地上に降ってくる。このサイクルは10日と短く、水は高速循環資源で、サイクルが長くなると渇水になり、早まると洪水になる。

 その範囲は300キロほどで循環し、線状降雨帯のように1カ所に集中すると大きな被害をもたらす。昨年は関西で、今年は北日本で被害が起きて、災害が日常化している。ちなみに樹木は100から200年で枯れて循環し、化石燃料は人類史の時間では循環せず持続しない。

 日本は水資源が豊富なように見えるが、食糧需給率が40%で輸入食料換算のバーチャルウォーターを考えると、水ストレスのある国に分類される。

 水は限りある資源で、水使用量を1人1日320リットルに抑える動きがある中、温泉旅館では、お客さま1人1日の水使用量が600リットルから、多い施設は1トンを超える上に、広い意味で水資源である温泉も使っている。

 深層温泉水は50年から100年で循環する資源で、使いすぎると枯渇する。エコ・小活動で水の使用量の多い旅館は光熱使用量も多いことが分かっていて、旅館は水の使用量を抑えることで生産性を向上し、食品ロスを減らしてバーチャルウォーターを削減することができる。

 地域で環境負荷を減らし、水循環に良い影響が出れば流域の環境が改善され、ひいては景観という資本財の価値が上がる。洪水も招き、恵みの水ともなる水資源に注目することで見えてくることがあると感じている。

 
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