【道標 経営のヒント 206】日本の紙メディアのゆくえ コンテンツキュレーター 小倉理加


 「紙媒体には未来はない」。そう言われるようになって、5年ほどが過ぎた。説明するまでもなく、ウェブ媒体が台頭し、SNSの普及により情報やトレンドの要であった雑誌の売り上げや存在価値が大きく下がったことが原因だ。冒頭から、新聞という紙メディアの象徴にはふさわしくない言葉で失礼するが、マスコミはもちろん広告業界ではますます深刻な話題である。

 そして、その紙離れはとうとう“通信販売”にまで及んだ。その最たるものが、今年の初めに三越伊勢丹通信販売が紙のカタログを終了し、ECサイトにシフトしたことだろう。紙の通販は制作費や配布コストがかかるなど諸事情からたどり着いた結論とのことだが、結果はいかに。実は、起死回生の布石だったはずの英断が、多くの顧客を紙のカタログを持つ他の通販会社へと移行させるきっかけとなったと聞いた。

 この例に限らず、富裕層は“紙”にこだわる傾向にある。彼らに、その理由を尋ねると、「ネットから情報が漏れることが懸念される」というのが主流。医師をターゲットにした媒体などは、通販に関して今でもファクスによるオーダーが多いそうだ。続くのが「ページをめくりながら選び、コールセンターにカタログを見ながら電話をかけてお問い合わせがしたいから」というものだった。

 確かに、ウェブは便利である。ショッピングであれば、気に入ったものをすぐにその場で“ポチる”ことができるので、なおさらだ。しかし、高額品をそろえる時計専門店がウェブに注力する一方で、顧客層には必ず毎年、時間をかけて制作した紙のカタログを送付するなど“紙”の信仰は篤(あつ)い。また、ジュエラーに教えてもらったのだが、婚約指輪や結婚指輪を探している若い女性たちも、雑誌のページを切り抜いて持ってくることが多いという。絵作りに凝った写真に惹(ひ)かれたり、商品自体の説明に加えて描かれている、それが生まれた背景や商品名の意味などに共感して、ページを切り抜くのだそうだ。人生の節目に使う、彼らにとっては思い切った金額の買い物には、時間や予算をかけた紙媒体が憧れを誘うのかと思うと、そこに携わる1人としてこれ以上うれしいことはない。

 先日、イタリアのジャーナリストに「日本人は1年間に平均何冊ぐらい本を読むのか?」と質問を受けた。イタリアでは、なんと年間1冊が平均であるらしく、それを彼女は嘆く。ちなみに、日本を調べてみると文部科学省の調査から年間12~13冊となっている。ときたま、電車の座席に座る乗客が並びで3人ほど書籍や雑誌を開いている光景に出合うこともある。まだまだ、日本の紙媒体への未来は暗くないと希望を確信するときである。

 
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