【道標 経営のヒント 147】固定概念を突き崩す 宮坂 登


 前回、ベンチャー企業の若手社員の発想力のスキルアップのための講師を始めた旨を書いた。今回はその2稿目。

 講座を始めてルーム内を見渡すと、ひと言も聞き漏らさないぞ、というような緊張感があった。初回講座の印象を会社側に伝えたこともあり、上司たちにハッパをかけられたのかもしれない。今回のテーマは固定概念を突き崩すことにあった。直接、発想力の向上につながるものではないが、頭を柔軟にするためには避けては通れないのが、当たり前のことを当たり前にしか考えないようなモノゴトの捉え方を捨て去ること。筆者がまだ駆け出しだった頃にも先輩諸氏から同じようなレクチャーを受けた。

 そのときに出されたテーマというのが「どんな時にタバコの味を感じるか」というものだった。今の時世では怒られてしまうお題だが、そこに居合わせた全員が喫煙者だったことによる。その答えだが、圧倒的に多かったのは「食後の一服」。次が「目覚めの一服」。誰しもが思うような、至極当たり前の答えであり、当然のごとく先輩たちから思い切り罵倒された。「ものの見方や感じ方がなっていない!」と。

 そこで思い描いたのは、朝起きてから夜眠るまでに自分がどんなふうにタバコと関わっているのかということ。いつ吸うのか、どんなときにタバコに手が伸びるのか、ということを1日の時系列の中で思い起こすことだった。解答の順番が回ってきて、満を持して「考えがまとまらないとき」と答えたときに言われたのは「全然、ダメ!」というお叱り。その後、筆者を含む5人の若手社員は延々とダメ解答を繰り返した。

 「違う銘柄のタバコを吸ったとき」という解答を口にしたときだった。「では、持っているタバコを卓上に出し、それを眺めながら考えてごらん」というヒントが出た。そのときにふと浮かんだのが、ライターで付けたタバコと、マッチで付けたタバコの味の違いだった。マッチで火を付けると、瞬間的にマッチに含まれるリンの匂いがする。答えを口にすると、「そう! それそれ! そういうモノの見方」と先輩たちから喝采を受けた。習慣として喫煙する中で、火を付けるという行動を当たり前に無意識に繰り返す。その瞬間に誰もが必ず感じていることがある。気付きそうで気付かないこと、そのことに広告マンとして目を向けてほしい、ということをそのレクチャーで教えられた。今でも思い出す。

 講座では喫煙とは異なるテーマを投げかけたが、やはり物の見方が常識的すぎる。固定概念の範疇(はんちゅう)にまだまだとどまっている。

 
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