【道標 経営のヒント86】男性接客を雇う、経営者の覚悟 福島規子


 指導に当たっているレストランや旅館で男性スタッフを対象にした接客研修が続いている。

 旅館の男性接客係が最初に注目を浴びたのは、バブル期の頃だった。外国人ダンサーがステージで踊り、客席にはホステスが座るナイトクラブが全盛だった90年代前半、某大型観光旅館がイケメンを揃えたクラブをオープンさせた。客層が社用族の男性客から熟年女性を中心とした女性グループ客へと変わり始めた頃で、男性スタッフがズラリと並んで客を出迎える光景は圧巻だった。

 次いで、話題になったのはバブル崩壊後、ホストクラブのような大箱が姿を消し、会食場が座敷からテーブル席に変わった頃である。派遣会社から送りこまれてきた接客係は全員男性。会食場に配属した若い男性スタッフは接客もそつなくこなし、女性客の評判も上々だった。ただ、中には「せっかく旅館に来たのに居酒屋みたいな接客で不快」と厳しく評価する女性客もいた。

 当時は、飲食店のバイトと掛け持ちという派遣男性も少なくなかった。リストラ、就職氷河期と言った時代の波にのまれ「ほかに仕事がなかったから」という言い訳のような本音は何度も耳にした。

 仮に、このようなバブル期を男性接客係が台頭した「第1次ブーム」とすると、俗に失われた10年と呼ばれる不景気時代が「第2次男性接客ブーム」、そして、2017年、いよいよ「第3次男性接客ブーム」の到来となる。

 今回のブームの特徴は旅館の男性接客係のほとんどが「接客業を極めたい」「接客でプロになりたい」と言う、高い職業意識にある。ここで過去のブームを振り返ると、第1次ブームでは、仲居=女性という一般常識を男性接客係が覆すというセンセーショナルかつ色物的な扱いだった。
 
 一方、第2次ブームでは、ほかに仕事が見つからなかったという理由から「でもしかセンセイ」ならぬ「でもしか接客係」になった男性も少なくない。

 しかし、いまや大卒男子が、一生の仕事として旅館の接客係を選ぶことも稀ではない。背景には労務管理を整備し家業から企業へと変貌を遂げつつある旅館の実態、あるいは、F大学と呼ばれる偏差値が高くない文系大卒男子の就職先として旅館業が密かに注目を浴びていることなどが挙げられよう。

 しかし、男性社員を採用するとなると経営者はその家族の人生をも背負うことになる。「旅館の給与だけで家族を養っていけるのか」「土日に子どもと過ごす時間は取れるのか」仲居不足を男性接客係で補うというアイデアは評価できる。

 重要なのは、旅館経営者にどれだけの覚悟があるかどうかである。収入面に加え、ワークライフバランスにも気を配る。旅館業界でも「働き方改革」の第1歩を踏み出した。

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