【道標 経営のヒント108】ネーミングへの過程 宮坂登


 旅館・ホテルの新築時やリニューアル時などには館名や施設名のネーミングが伴う。オーナーさんや経営者から軽い口調で「頼むね!」などとオーダーされると、「そんなに簡単にはできない…」と思ってしまう。ずっと使っていく大切なものだからだ。

 ネーミング手法はさまざまあるが、制作にあたっては、時と共に施設になじんでいくようなものをと自らに課す。その思いは提案直前の最終段階でも変わらず、プレゼンテーション時にはそのネーミングがふさわしいかどうか、宿側の方々の反応や表情、心の内を探っている自分がいる。

 「これは完璧だ」などというネーミング提案はおおよそできたことがない。考えて考えて、悩んで悩んで。しかも決定するまで常にモヤモヤ感がつきまとう。

 ネーミングと併せて、ロゴマークデザインの提出を求められることも多く、プレゼンテーションに向けては慎重な準備と考え方の組み立て、理論付けが必要になってくる。

 いつもながらネーミングは難業だと思う。答えがあるような、ないような…。弱音を吐くわけではないが、これがネーミングに際しての制作者の心の内だ。

 ブランディング発想を伴わないネーミングならば、機械的に策定することもある。以前、広告会社でネーミングソフトなるものを使用したことがある。膨大な数の言葉の中からテーマに沿ってワードを選び、組み合わせていく手法だ。

 今も時折、その方法論に習い、さまざまな辞典から任意に言葉を選び組み合わせながら、その一つひとつがふさわしいかどうかを検証する。担当諸氏の頭の中に浮かんでいるであろう名前のイメージと合致しているかどうか。あるいは多くの方々を惹きつけアピールする名前であるかどうか…。気が遠くなる作業でもある。

 宿の大立地や小立地、歴史、施設特性、サービス特性などから発想することは王道の作業だ。企業のアイデンティティ、理念や将来的ビジョン、商品ストーリー、ブランドコンセプト、バリュー、優位性、スペックなど、ブランディング要素を整理し、チャート化してネーミングに臨む。

 その段階で浮かんでくる案はまだネーミングと呼べるものではなく、頭の中を整理するための素材である。

 館名とは、いつの間にか独り歩きして市場や人々の心の中で育まれていくもの…。いつもそんなイメージを大切に、発想しては検証するという作業を繰り返し、提案にたどりつく。その後に待ち受けるのが慎重に慎重を期したプレゼンテーション。

 思いよ届け! こんな制作者のジレンマを宿の方々は知る由もないだろうが、どこかで知ってほしい気もする。

 
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