前回に引き続き、親子の性格や関係を例示しながら、事業承継を円滑に進めるコツを紹介しよう。親族内承継だから円滑な意思疎通が図れるかというとそうではない。血のつながった親子であるがゆえの葛藤が旅館・ホテルの運営にさまざまな影響をもたらすことがある。
7、親は共働き、子は片働き
かつての伝統的な旅館・ホテルは夫婦共働きで運営するのが当たり前という考え方があった。この考え方は、夫婦の役割分担がうまくいっている時は大変合理的であった。夫は社長として対外交渉や経営に専念し、妻は女将として顧客対応や商品造りに専念することで、相互に補完し合う関係を築くことができたからだ。
一方で、現代では労働観や結婚観が大きく変化した。子の配偶者が旅館・ホテルの運営に関わらないというのは珍しいことではない。孫が大きくなっても専業主婦を続けたり、自分で別のビジネスを始めたりすることもある。
このようなケースでは、親の運営のやり方を押し付けるのではなく、子の考え方を尊重し、組織としてバックアップ体制が築けるようサポートすると良い。
例えば、子が若女将となる代わりに、洋式ホテルのような支配人を配置したり、スタッフの中から若女将を選出したりという方法などが考えられる。
将来の女将を配置しないことは顧客対応や商品造りがおろそかになるリスクはあるが、家業から事業への転換を図る良いチャンスでもある。
社長以外の親族が運営に関わらないことで、一般スタッフを経営幹部に登用しやすくなるというメリットがある。家族経営だと多少能力が劣っていても重要なポストには親族を優遇しがちだからだ。
子の配偶者が館の運営に関わらないことをスタッフや取引先に対して否定的に話すのはやめたほうが良い。配偶者が家業を手伝うことが当たり前の時代ではない。
本人の意思に沿わず、労働を押し付けるやり方は経営者一族内の不和にもつながるので注意したい。子の価値観を尊重して良い関係を築こう。
(アルファコンサルティング代表取締役)