新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の「観光立国」実現を危うくさせている。世界的に猛威を振るい、人の交流はパタッと止んだ。
今年1月、東京都内で開かれた観光関係団体懇談会が主催する令和初の「観光立国新春交流会」では、政府が掲げる「2020年の訪日客4千万人」の実現は夢物語ではないという熱気にあふれた。
来賓出席した菅義偉官房長官も「昨年(のインバウンド)は韓国以外全て10%以上伸びている。自信をもって、(業界の)皆さんと協力し、4千万人、6千万人達成に向けて頑張る」と力強く語った。
この時、コロナ禍が日本を席巻、業界に大打撃を与えるとは誰しも思わなかった。まさに青天のへきれきである。
日本政府観光局(JNTO)が発表した3月の訪日客数はわずか19万4千人に過ぎなかった。前年対比93.0%減で、これは1964年の統計開始以来、最大の落ち込み幅となる。衝撃的な数字だ。
業界はこれまで経験したことのない苦境に立たされている。たとえ国内で感染拡大が収束しても、世界で鎮静化しなければ訪日客の回復は難しい。来年に延期となった東京五輪・パラリンピックも開催の保証はない。「開催確率は0%」と言い切る感染症専門家もいるぐらいだ。
であるなら、当面は国内需要中心にならざるを得ないのではないか。
4月23日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)で、星野リゾートの星野佳路代表は「コロナが収束しても(観光)需要が戻るまでには1年以上かかる」との見方を示し、「これまでのように大都市圏、インバウンドをターゲットにするのではなく、宿泊施設周辺に住む人たちに向けた『マイクロツーリズム』に着目することが観光業にとって重要」と指摘した。
その上で「自分の家から10分、15分、30分、1時間の範囲を観光してみる。事業者も需要が戻ってくる時にそこを狙ってみてはどうか」と提案する。
アベノミクスの成長戦略の柱とされてきた観光立国だが、コロナ禍の長期化もいわれる中、拡大一辺倒だった戦略は見直しを迫られている。
もともと、「訪日客に過度に依存するのはリスクが大きい」とされてきた。コロナ禍は改めてその正しさを裏付けた格好だが、人口減の日本の中にあって、訪日客の存在が無視できないのも事実だ。要はどうバランスをとるかだろう。
コロナ後の観光戦略はどうあるべきなのか、業界自身が考えることはもちろん、立国を推進する政府も方向を示してもらいたい。日本の観光は大きな曲がり角に立たされている。
観光地などににぎわいが戻るのはいつだろうか(東京都内)