【観光業界人インタビュー】山岸旅館社長 外川 凱昭氏


山岸旅館社長 外川 凱昭氏

拡大する中国市場 旅館の受け入れ策②

政治リスクや習慣の違い 経営に織り込み利益確保

 外国人客でにぎわう山梨県富士河口湖町。山岸旅館の外川凱昭社長は、政府のビジットジャパン事業に先駆けて、外国人をメーンターゲットにした宿泊施設「富ノ湖ホテル」(同町)を2001年に開業し、インバウンドに取り組んできた。豊富な経験を持つ外川社長に中国人客の受け入れのポイントなどを聞いた。

──中国人客の受け入れの現状は。

 富ノ湖ホテル(92室)は、昨年の外国人宿泊客が約4万4千人で、このうち中国人客が約1万6千人。07年に開業した「じらごんの富士の館」(115室、同県鳴沢村)も外国人をメーンターゲットにした施設で、昨年の外国人宿泊客が約6万4千人、中国人客は約2万8千人だった。国・地域別では中国が最も多く、タイ、台湾などが続く。両施設は1泊2食を低料金で提供するのがコンセプトで、中国人客は団体が9割、個人が1割というのが現状だ。

──経営における中国人客の重要性は。

 言うまでもなく、中国は人口が多く、市場のボリュームを考えると重要な顧客だ。ビザ(査証)の緩和で増えてきた個人客も狙い目。今なら中国人客だけで部屋を埋めることも可能だが、香港や台湾、東南アジア、欧米などを含めてバランスをとるようにしている。中国一辺倒で集客していた時期もあったが、尖閣諸島の問題が起きた時、全てキャンセルになってしまったことがある。中国からの誘客には、政治上、外交上のリスクを念頭に置く必要がある。

──中国人客の受け入れで考えておくべきことは。

 マナーの問題などが指摘されるが、確かに最初の頃は備品を持ち帰ったり、施設の使い方が良くなかったりといろいろなことがあった。しかし、今はだいぶ良くなっている。大浴場やトイレの使用方法などは、中国語やイラストで表示し、ツアーガイドにも事前に説明してもらう。

 マナーの問題と言うが、受け入れる側がもっと適切に情報を提供すべきだろう。日本の生活習慣はこうで、当館の利用のルールはこうだと前もって説明できれば、多くの問題は解消できる。相手に変わることを期待するのではなく、自分たちの取り組み方を工夫すべきだ。

──中国人客をはじめ外国人が増えると、宿の雰囲気が変わり、日本人客の評判が落ちるという懸念も多いようだ。

 そこは難しい問題だ。団体客がある程度騒がしいというのは中国人客に限った問題ではないが、ロビーや大浴場などパブリックな場所でいっしょになった日本人客から不満が出る心配はある。当社の両施設は外国人客が9割以上で、日本人客はそうした宿であることを承知で宿泊している方が多く、ほとんどクレームにはならない。日本人客とともに受け入れるなら、個人客に特化するのも一つの手だ。個人客は海外旅行に慣れている方が多く、マナーなどの問題は心配ない。中国の訪日観光は、個人旅行化するスピードがかつての台湾などより速いようなので、個人旅行の市場はさらに拡大していく。

 加えて、日本人客の受け止め方も少しずつ変わっていくと思う。英語や中国語が少しできる日本人客がロビーで中国人客と楽しそうに話していることもある。2千万人、3千万人と訪日外国人が増えていけば、地方でも外国人が珍しくなくなる。観光立国を推進する上で、日本人の意識も課題になってくる。

──中国人客の受け入れを検討している旅館にアドバイスを。

 中国の団体ツアーは料金が安いと思っている方が多いようだが、宿泊単価は年々上がっている。安い料金を提示する必要はなく、やり方次第できちんと利益は上がる。ただ、精算やキャンセルのリスクは考えておくべき。当社では、信頼できる日本国内のランドオペレーターを間に入れ、支払いは前振り込みか、当日の現金払いにしている。直前のキャンセルも多いので、予約確認業務もしっかり行う。商習慣が違うので金銭のことはあいまいにせず明確にすべきだ。

 設備ではフリーWi‐Fi(公衆無線LAN)は必須で、ロビーだけでなく、客室でも使えるようにすべきだ。売店では銀聯カードが使えるようにしたい。

 言葉の問題は、スタッフに中国語講座を受けさせるなど、基礎的な対応ができるようにしている。館内案内など基本的な単語や文章はマニュアル化した。個人客は英語ができる方が多いが、歓迎や見送りなどは相手の国の言葉を使うようにしている。おもてなしの心で迎え入れるという点は、日本人も外国人も変わりはない。先入観を無くして取り組んでみてはどうだろうか。

【とがわ・よしあき】
大正6(1917)年創業の山岸旅館(山梨県富士河口湖町)の3代目。他に富ノ湖ホテルなど宿泊施設3軒を経営。国土交通相任命の「ビジットジャパン大使」。河口湖観光協会会長など。

山岸旅館社長 外川 凱昭氏

 
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