観光復活へ官民一体で魅力をアピール
群馬県みなかみ町に観光客が戻りつつある。この動きを確かなものにしようと行政と民間が一体になって観光施策を進めている。外国人をもっと呼び込もうと「インバウンド戦略」も策定した。阿部賢一町長と小野与志雄・みなかみ町観光協会代表理事(宝川温泉汪泉閣)に町の観光魅力と集客戦略を語っていただいた。司会は論説委員の内井高弘(1月下旬、町長室で)
米国は西海岸、ハワイを重視
――2022年度のみなかみ町の入り込みはいかがでしたか。
阿部 水際対策が緩和され、23年5月には新型コロナの感染症法上の位置付けが「5類」に移行、旅行に行きやすい環境になりました。それが奏功してか、日帰り客は172万5千人、宿泊客は114万3千人で、前年度比それぞれ40%、30%の増加となりました。ただ、草津温泉や伊香保温泉と比べると若い人の認知度がいま一つで、どうアピールし、集客増に結びつけるのかが課題の一つですね。
みなかみ町長 阿部賢一氏
――インバウンドについては。
小野 23年1~11月の数字ですが、2万822人となっています。22年は年間で4885人。大幅増となっており、コロナ禍前の19年(2万7007人)に迫る勢いです。最も多いのはタイで4418人、以下、米国2354人、台湾2350人など。最近は韓国からの旅行者が目立ちますね。
当館はインバウンドがほとんどで、宿泊単価は2万2千円ほど。日本人と比べ5千~6千円ほど高く、いっそ冬の間はインバウンドのみにしようかという話もあります(笑い)。日本人の人口が減る中で宿を埋めていくのはインバウンドですが、100%カバーできるわけではなく、そのへんが痛しかゆしです。
みなかみ町観光協会代表理事 小野与志雄氏
阿部 人口減少による観光客の減少はどこの温泉地・観光地も危機感を持っており、どうカバーしていくのかを模索しています。インバウンドは国際政治や今回のコロナのような疫病など、その時々の情勢に左右されるので依存するのは危険ですが、重要性はますます高まると思います。
――旅行者にどう魅力をアピールしますか。
阿部 みなかみは新幹線で東京駅から約1時間、関越道を使えば練馬インターから月夜野インターまで約80分とアクセスは非常にいい。自然も豊かで、清流・利根川の周辺には趣の異なる18の温泉地が点在し、ユネスコエコパークに認定されたエリアでのアウトドアアクティビティは日本屈指の規模です。米や農産物など食の面でも充実しています。加えて、日本の原風景も色濃く残っており、外国人のニーズを満足させると自負しています。
小野 日本の原風景プラス雪というのも大きな観光魅力ですね。特に、雪がない国の人にとっては刺激的で、楽しみ方というか、どうメニューを提供していくのかが大事です。
――24年の出足は、能登半島地震や航空機事故、新幹線のトラブルなどがあり、コロナ禍からの観光再始動の気勢がそがれましたが、今年はどんな展開を。
阿部 多くの人に魅力を知っていただき、体感してもらい、「また訪れてみたい」と思わせるような仕掛けを考えたい。機会があるごとにアピールしていますが、ふるさと納税額も7億円を超え、過去最高額が見込めるなど注目されるようになっています。観光協会など民間を支援し、行政としてできることは何でもやっていく姿勢で臨みます。
小野 予算に限りがあり、単独でできることは限界がありますが、例えばJRの観光プロモーションの呼び掛けには積極的に応じるなど、前向きに対応する。最近では、大宮駅近くにある「東日本連携センター」でのイベントにも定期的に参加しています。昨年12月2~3日には「冬の味覚展」として、リンゴやキノコなどを販売しました。
――「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産にしようという動きがあります。
小野 個人的には「入浴文化」とし、その中に温泉を入れたほうがいいとは思いますが、実現すればわれわれ旅館業界にとっては追い風となることは間違いない。
阿部 登録は簡単ではないと思いますが、温泉ブランドの向上につながり、温泉を抱える自治体にとっては大きな励みになるでしょうね。
――みなかみは18の湯があり、それぞれに個性があります。
小野 高級旅館から秘湯の一軒家、昔ながらの温泉街など、お客さまの志向に合わせて選べるのは強みですね。ただ、範囲が広いため移動するのに時間がかかり、温泉のハシゴがしにくいという面もある。
阿部 選択肢が多いというのはセールスポイント。家族連れ、高級志向の人、インバウンド、修学旅行生も受け入れられる。
――人手不足が深刻ですが、みなかみも例外ではない?
小野 大きな問題です。このままでは廃業する施設も出てくるのではないか。外国人労働者を採用したいのですが、なかなか難しい。頭が痛いですね。
――群馬には草津や伊香保など有名温泉地もあり、競争も激しい。みなかみにいかに来てもらうか。
小野 インバウンドについては新幹線駅まで送迎する。英会話ができるスタッフを数人集める。あとはウエルカムの雰囲気を前面に出す。それをやれば大丈夫です(笑い)。
阿部 草津や伊香保に対抗するつもりはありません。いままで蓄積したデータがあるので、それを検証精査した上で、効果的なところに重点的に予算を使っていく。
宿泊客は114万人、3割増加
――23年のインバウンド数は全体で2056万人となり、コロナ禍前19年の8割まで回復。一方、旅行消費額は5兆2923億円で、過去最高となりました。今後、インバウンド市場が拡大傾向を示す中、町は23年度に「みなかみ町インバウンド戦略」を策定しました。町のインバウンド環境をどう捉えていますか。
小野 新幹線など鉄路を利用した際の2次交通やキャッシュレス決済の問題をはじめ、多言語でのSNSによる情報発信の不足やハイシーズンとボトムシーズンでの宿泊人泊数の差が大きいこと。さらに、観光地が広域に点在し周遊しにくいことや、多言語による看板やメニュー表記などが少ないことなどが挙げられます。これらを一つ一つ解決して、拡大を図っていきます。
――戦略の位置付けは。
阿部 23年度からの5年間における基本計画です。従来のターゲットである台湾、タイ、豪州に加え、米国を新規ターゲットとして、現地旅行会社へのセールスコールやファムトリップを中心に、国内ランドマークへの営業に力を入れます。
特に上越新幹線沿線協議会(新潟市・佐渡市)における広域連携を生かしたプロモーションを継続することで、既存はもとより、新規旅行会社への積極的な展開を進め、25年度の3万2千人泊、27年度には4万6千人泊を目指します。
小野 全体戦略については、24年度以降は(1)ジャパンレールパスによる上越新幹線の利用を促進し、町内エリアバスパスの周知を図る(2)観光事業者の英語力を高めるための取り組みを強化(3)ホスピタリティ観光ガイドの育成(4)国際交流イベントの実施―などを重点的に展開します。
――米国対応は。
阿部 24年度以降についてですが、温泉文化をはじめ歴史や世界的な認知のあるユネスコエコパークに認定された自然環境が訪日の主目的となっているため、親和性を生かしたブランディングやプロモーションを行っていくほか、市場規模の大きい個人旅行層の誘客を視野に入れた戦略立案を行います。
小野 米国については特に西海岸とハワイが重点エリアです。
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