【竹内美樹の口福のおすそわけ166】恵方巻商戦が終わって… 竹内美樹


 毎年節分に繰り広げられる恵方巻商戦。このところ、どんどんヒートアップしているようだ。実は筆者が役員を務めるお弁当製造販売会社も太巻きを販売しているので、他社の動向は気になるところ。

 見渡せば、実にさまざまな太巻きが販売されている。各地のブランド水産物を具にした物や、外側を肉で巻いた物、金箔で巻いた1本1万円の物まである。シャリの代わりにパンを使用したり、トルティーヤや中華まんの皮の他、今年はうどんで巻いた恵方巻も登場したそうだ。「虫恵方巻き」なんていうモノもあるらしい。ハチノコなど三種類の虫を具材に用い、外側にイナゴの脚を刺して、虫のような見た目に仕上げてあるそうだが、果たして売れたのだろうか…。

 もはやカオス状態とも言える様相を呈してきた恵方巻商戦。元は「福を巻き込む」巻き寿司を、「縁を切らずに」丸かぶりする関西圏の習慣から始まったとされる。コンビニが初めて全国エリアで発売したのは、1998年のことだそうだ。太巻きを1本食べればお腹が一杯になるので、夕食の支度が楽になると主婦層の支持を得て、急速に全国区に広まったらしい。

 某百貨店では、およそ200種類約4万本が店頭に並んだというのだから凄まじいが、こうした過剰な商戦の裏に、忘れてはならないことがある。食品廃棄の問題だ。毎年、売れ残った恵方巻が大量に廃棄処分される様子がSNSに投稿されているが、今年も残念ながら例外ではなかった。

 農林水産省によれば、日本では年間約1927万トンの食品廃棄物を排出しており、そのうち本来食べられるのに廃棄される「食品ロス」が、年間約632万トンにも及ぶという。そしてこの量は、世界全体の食糧援助量の約2倍にものぼるそうだ。現在、世界で約7億9500万人もの人々が飢餓に苦しんでいることを考えると、心が痛む。昨今では、いろいろな理由で可食であるにも関わらず廃棄される食品を、路上生活者などに届ける「フードバンク」や、飼料や肥料への再利用など、「食品ロス」有効活用の動きが出てきているが、やはりそもそもロスを出さないに越したことはない。

 手前味噌だが、弊社の恵方巻は例年完売だ。それは、無理な数量を製造しないから。今年はその数1500本。売場からは「もっと売れたのに」という声があったが、神田明神様御祈祷済みの福豆を同梱させていただいていることもあり、1本たりとも余らせないようにしている。恵方巻にノルマを課している店もあると聞くが、ノルマ分が売れずに買い取った場合、自分で食べ切れなければこれもロスになってしまうのだから言語道断だ。

 恵方巻の喫食場所は、自宅が9割以上という調査結果があるそうだ。家族で食べるというせっかくの良い習慣が、悪しき習慣になってしまっては悲しい。今一度、過剰な商戦を見直す時期に来ているのではないだろうか?

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

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