【竹内美樹の口福のおすそわけ 341】玉子焼き 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 お弁当に欠かせない玉子焼き。あの黄色い彩りが入るだけで、何となくシアワセ感が漂うからスゴイ。唐揚げやつくね、エビフライ、金平ごぼうなど茶色のおかずが多いから、「映える」ためにも必須アイテムとあって、お弁当人気おかずランキングの第1位だ。

 高度成長期の子どもたちが好きだったモノを表した流行語「巨人・大鵬・玉子焼き」。当時負け知らずで大人気だった読売巨人軍、前人未到の強さを誇った横綱大鵬関と並び称された玉子焼き、その人気ぶりがうかがえる。高級品だった卵が一般家庭に普及して以来長年値上がりせず、「物価の優等生」と呼ばれ、玉子焼きもスター選手に。子どもだけでなく、大人も大好き。そば屋のツマミのように酒のさかなとしても人気の玉子焼き、隅に置けない。

 玉子焼きの世界って、実はとても奥深い。まずは味付け。関東は甘辛く、関西はだしを効かせて甘味を入れない。前者は「厚焼き玉子」とも呼ばれ、後者は「だし巻き玉子」と呼ばれる。同じ玉子焼きと言っても、別の食べ物くらい味が違う。

 なぜ東西でこんなに味が違うのか? それは、だしが違うからという説がある。日本は基本的に軟水だが、関東は比較的硬水寄りなので、昆布だしが取りにくい。そこでかつおだしが定着し、その魚臭さを消すためにしょうゆの香りに頼り、濃い味付けになったというのだ。

 玉子焼きの見た目も東西で異なる。厚焼きはおしょうゆとお砂糖が焦げるため、焼き色がついて少し茶色っぽいが、だし巻きは主役のだしに薄口しょうゆ少々だから、淡い黄色に仕上がる。

 焼き方も違う。「京巻き」は卵を手前から向こうに巻く。その方が卵の重みで空気が入らず、美しい形に出来上がるという。向こうから手前に巻くのは「大阪巻き」と呼ばれ、関東でもスタンダード。玉子焼き鍋も東西で異なり、ゆるい卵液を何回も巻く関西は巻きやすい長方形、あまり何度も巻かずに厚く焼き上げる関東は正方形だそう。

 ちょっぴり厄介なのが表記だ。玉子焼きか、それとも卵焼きか? 江戸前のすし屋では、エビや魚のすり身入りの玉子焼きもあり、店の特徴を出した看板メニューにもなっている。「ギョク」とも呼ばれるが、玉子の玉に他ならない。

 「卵」という文字は、これからふ化する生物のタマゴに使い、「玉子」は調理した物を指すと言われる。魚卵は「魚の玉子」とは書かないし、「玉子丼」は「卵丼」とは書かない。でも「ゆで卵」もあるし、NHK放送用語では「卵」に統一しているそうだ。そのNHKも、将来的に「玉子」を認めざるを得ないだろうという。確かにググってみると「玉子焼き」が約3600万件、「卵焼き」は約1千万件と、「玉子」の圧倒的勝利だ。

 今、銅製の玉子焼き鍋が欲しくてたまらない。熱伝導が良く、ふんわり焼けるという。道具じゃなくて腕でしょ?という声が聞こえてきそうだが、使いこなせたらカッコイイ。いつの日か、理想の玉子焼きが作れるようになりたいなぁ。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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