
前回、ホーチミンの超ローカルな蟹(かに)専門店をご紹介したが、この街には仏植民地時代の面影を色濃く残すオシャレなレストランもたくさんある。その代表格の一つが、フレンチ・ベトナミーズ・キュイジーヌの「マンダリン・レストラン」。
高級感漂う一軒家に入ると、ロビーに日本の小泉元首相はじめ各国の要人の写真が飾られ、VIP御用達の店だと思える。伝統音楽の生演奏もあり、非日常の世界に浸ってウットリ。
生春巻の盛り付けも、群を抜く上品さ。皿の上にチリソースで書かれた「マンダリン」の文字もどこか誇らしげだ。同店の名物は、揚げ春巻。奇麗な三角形に巻かれ、その頂点から海老(えび)の尻尾が顔をのぞかせている。「マンダリン・スタイル」とメニューにある通り、形も味も他の追随を許さないだろう。土鍋入りの蟹春雨も、サスガの味わい。蟹の味が染み込んだ春雨のおいしさといったら!
今回初めて訪れたレストランの一つが、「ホア・トゥック」。実はここ、フランス統治時代のアヘン工場跡地の一画で、店名もアヘンの材料であるけしの花を意味するベトナム語だそう。築百年以上の建物を改装したとは思えない、エレガントな店である。
「コンテンポラリー・ベトナミーズ・キュイジーヌ」とうたっているだけあって、ベトナム料理を現代風にアレンジしている同店。生春巻きには、魚醤(ぎょしょう)ベースのソース、ヌクチャムやスイートチリソースではなく、ピーナッツソースが添えられていた。甘めだがコクがあり、なかなかイケる。
ベトナム南部の代表的な家庭料理で、ベトナム風お好み焼きとも言われるバインセオは、ターメリックで黄色く色づいた米粉の生地がパリッパリ。
挟まれた具は海老と牛肉で、タップリの野菜が添えられていた。本来ひと口大にちぎり、この野菜に包んで食すらしいが、せっかくクリスピーなのでそのままかぶりついてしまった。ウマイ!
ちなみに、バインセオのバインは、粉モノを意味する。フランス文化が根付くベトナムで人気の、フランスパンのベトナム風サンドイッチも、バインミーと呼ばれる。
もう一軒は、フレンチ・ヴィラを改装した一軒家レストラン「クック・ガック・クアン」。ハリウッド・セレブがお忍びで訪れたことで有名らしい。日本語でオーダーを聞かれ驚いていると、ご主人が日本人だと言う。そこで、彼女のオススメに従うことに。
同店のイチオシ、揚げ豆腐のレモングラス掛けは、一般的な家庭料理だそう。みじん切りにして揚げたレモングラスが掛かった豆腐は、素朴で懐かしい味。彼女が気を利かせて持って来てくれたお醤油を付けると、和食にも思える。
もう一つのウリが、鍋だ。La giangという酸っぱい葉で酸味を付けた汁に、ブツ切りの鶏肉が入っており、後から山ほど野菜を投入する。不思議な味なのだが、クセになりそう。
まだまだ食べてみたいものが一杯あるベトナム。また行かなくちゃ!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。