【竹内美樹の口福のおすそわけ 226】ロブスター&ストーン・クラブ 竹内美樹


 ラスベガスで必ず訪ねるレストラン「ザ・パーム」で、前回6ポンドのロブスターに舌鼓を打った時、ウエイターが、1カ月前に連絡すれば10ポンドクラスを用意できると言う。そこで出発のひと月前、店にメールで頼んでおいた。

 待望のロブスターと、まずは調理前にご対面。運ばれてくると、周囲の人々もどよめいた。われわれの席まで見に来て、「アメイジング!」「クレイジー!」などと叫んではしゃぐ人や、写真を撮らせてくれと言う人もいた。それほど大きかったのだ。換算すれば4・5キロ以上、わが家の犬より大きい。今回のキッカケを作ってくれたブライアンが、バンザイの形になるようにハサミを手に持ち上げてくれたが、大柄な彼の上半身くらいあったから、体長は恐らく70センチ以上だろう。

 このロブスター、52歳なのだそうだ。なぜなら、1ポンド成長するのに5年、最初の1ポンドだけ7年掛かるのだという。そう聞いてしまうと、なんだか可哀想な気もするが、捕まってしまったのなら、感謝していただくしかない。

 成人男性の頭より大きなハサミは、先っちょはプルップルの食感だが、真ん中辺りは筋肉質で身がしっかりしていて、旨味が強い。これだけ重たいと、自分で動かすのも大変だろう。身も思いの外軟らかく、ミソの濃厚さと相まって美味。蒸すと2時間は掛かるそうで、調理法はゆでてからロースト。こんなサイズはとても食べ切れないと思ったが、4人でペロリ。

 今回の旅でもう1種類、特筆すべき甲殻類を食した。ストーン・クラブである。その名の通り石のように硬い殻を持ち、片方の爪がとても大きく、その爪だけを食べるのだ。実はこのカニ、身に危険が及んだ際は、逃げるのに邪魔になる大きな爪が簡単に外れるそうで、漁師が捕獲後爪をもぎ取って海に逃がすと、また2~3年で再生するのだ。メキシコ湾をはじめアメリカ大陸東沿岸部に生息し、フロリダ州マイアミにある「ジョーズ」という店の創業者が初めて食用として売り出したらしい。

 何度でも水揚げできるため、究極のサスティナブル(持続可能な)・フードとも呼ばれるが、漁期は10月から5月、爪先から最初の関節までが2・75インチ以上あるものしか取れないと定められている。

 マイアミ本家の提携店「ジョーズ」が、ラスベガスにもある。そりゃ、行くでしょう。3種類のサイズのうち、最も大きいラージを注文。20センチ以上ありそうな爪は、食べやすいようにハンマーで叩き割ってあり、ちょいピリ辛のオリジナルマスタードソースをつけて食せば、甘味が強調されて実に美味。カクテルソースで供する店もあるが、このソースはこのカニのために考案されただけある。

 ロブスターの歳を聞き、サスティナブルなのに漁に決まりがあるカニ爪を食し、口福なだけでなく、何だかちょっぴり考えさせられた筆者であった。命を「いただきます」という感謝を忘れちゃいけないと。

巨大ロブスター(奥は、iPhone)

ロブスターのハサミ

体長は70センチ以上

ストーンクラブ

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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