【竹内美樹の口福のおすそわけ 223】白いお粥 竹内美樹


 不覚にも、風邪で高熱を出した。体の節々が痛いなぁと思っていたら、あれよあれよという間に上がっていき、9度2分を記録。もう、節々どころか体中が痛くて起きていられない。こうなると寝ているしかないのだが、ありがたいことに母が何かと世話を焼いてくれる。筆者は三姉妹の長女だが、子供の頃こういう時は、母を独り占めにできるのでうれしかったものだ。

 わが家には、風邪で寝込んだ時の定番がいくつかある。まずは水枕。ゴム製で、水と氷を入れてタオルで包んで使うタイプ。額に当てる氷嚢(ひょうのう)が冷えピタに変わっても、コレだけは変わらない。少々ゴム臭いが、程よい量の水と氷を入れた枕に、たゆんたゆんと揺れながら頭を預けていると、何だか安心していつの間にか眠りに落ちている。

 そして、母が炊いてくれるお粥(かゆ)。ご飯から作る「入れ粥」ではなく、お米から作る「炊き粥」だ。

 ここでチョットおさらい。全粥は米に対して水が5倍、3分粥だと水は20倍…と考えると分かりづらいが、お粥の上澄みに当たる重湯がないのが全粥で、全粥7に重湯3が7分粥、5分粥なら半々と、全粥と重湯の割合でこう呼ばれているのだ。

 お粥のお供とくれば、当然梅干だ。コレは非常に理にかなっているらしい。梅干って見ただけで唾液が出てくるが、唾液には消化酵素がタップリ含まれているから、梅干と食せば消化しやすくなるというワケ。

 熱のある時には、つい梅干にお醤油(しょうゆ)と味の素をかけてしまう。熱があると口の中が苦く感じることがあるが、これは風邪薬や抗生物質などの影響で亜鉛不足に陥り、味蕾(みらい)の働きが悪くなるからだと言われる。味覚障害の最も大きな原因がこの亜鉛不足だ。そこまで重症でないにせよ、旨味成分グルタミン酸ナトリウムでできた味の素と、発酵調味料ゆえに甘味や旨味もある醤油をかけることで、知らず知らずのうちに低下した味覚をカバーしていたのだろう。

 熱だけでなく、鼻が詰まっていると余計にタチが悪い。ウナギの蒲焼の匂いだけでご飯を食べるという落語があるが、匂いは味覚の重要な要素。嗅覚が低下すれば、同時に味覚も低下するのだ。人が食べ物をおいしいと判断する要素は、味覚、嗅覚、視覚の他に、記憶があるとされている。計量して作っているワケではないので、その時々で濃さが違う母の白粥。だが、母が作ってくれたお粥はおいしいという記憶は、しっかりと脳に刷り込まれている。だから食欲がなくても食べる気になるし、元気になりそうな気がする。

 父が幼い頃、腹痛を訴えるたび、医者だった祖父から与えられた薬包紙入りの白い粉薬があったそうだ。長じてそれが粉糖だったことを知り、「病は気から」を、身をもって知ったと言っていたのを思い出す。そんなノスタルジアに浸っていられるのも、寝込んでいる時の特権かもしれない。でも、いつまでもこうしてはいられない。お粥を食べて、早く治さなくちゃ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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