【私の視点 観光羅針盤117】島たびを楽しもう 清水慎一


 島国である日本には、いわゆる離島(本州、北海道、九州、四国、沖縄本島を除く)が6847もある。そのうち、有人離島は418に過ぎない。しかも数少ない住民は、離島の生業の中核である水産業の衰退などにより急減している。

 振り返ってみると、筆者の学生時代は離島ブームで、重たいリュックを担ぎながらあちこちの離島を渡り歩いたものだ。そんな思い出に浸りながら、この夏久しぶりに家族や友人を連れて隠岐や小豆島をのんびりと観光してきた。

 隠岐では、日本離れした断崖絶壁の国賀海岸を船頭の軽妙な話と共に楽しんだ。小豆島では、680年前につくられた「迷路のまち」を巡り、400年の歴史を持つ醤油蔵で木桶仕込みの本物の醤油を味わった。

 離島には海を通して交流により育まれたユニークな歴史や文化がぎゅっと詰まっていると、改めて感動した。まさに、「海を生活の場にし、陸に住む者に比して異質な文化、生活体系」(宮本常一・海に生きる人びと)が残っている。

 このように、離島には本土との隔絶性ゆえの魅力が満載だ。しかし、隔絶性ゆえに生活環境は厳しい。港湾や道路は整備が進んだものの、暮らしの基盤となる働く場や教育、医療、交通などは本土以上に課題が山積している。

 そのため、人口減少は激しく、さらに無人島が増えそうな勢いだ。しかし、離島、とりわけ国境地域に位置する離島はわが国の領海や排他的経済水域の保全に関する重要な拠点だ。だから、国は手厚い支援により定住人口確保を図っている。

 その際、観光による交流人口拡大は政策の大きな柱だ。前述のように、昔ながらの暮らしが残されている離島では本土にはない“異日常”の体験ができるし、よそとの交流で生きてきた住民との触れ合いも楽しく、観光の可能性は極めて高いからだ。

 しかし、まだまだ観光に対する認識は十分ではない。この夏の旅行でも、2次交通の手配には苦労したし、こちらの問い合わせに満足に答えてくれない観光協会の対応には難儀した。離島特有の雰囲気を壊す公共施設にもがっかりした。

 こんな現状を踏まえ、観光交流を通して真の豊かな地域づくり(観光地域づくり)を実現させるために、先頃国土交通省離島振興課は「滞在交流型観光を通じた離島創生プラン」をまとめた。離島ならではの旅(島たび)を実現するための処方箋だ。具体的には、「コンシェルジュによる一元的な対応」「島での回遊を促すプログラム作り」「景観や歴史的な遺産の保全」などを提言している。これらは、長崎県小値賀町や島根県海士町ではすでに取り組み、多大な成果を挙げている中身だ。  

 これ以上住民が減少し、無人島が増えないようにするには、島たびの展開により島の生業(島業)を下支えすることが不可欠だ。「離島振興のあり方検討委員会」座長である筆者も、もっと多くの友人を誘って島たびを楽しもうと思う。

 (大正大学地域構想研究所教授)

 
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