
マーケティングの世界において、顧客1人あたりの単価を高め、LTV(顧客生涯価値)を向上させるための手段として、アップセルとクロスセルの考えが改めて話題にあがるケースが増えてきた。
アップセルとは、顧客が利用・検討しているサービスよりも高い商材を提案し、客単価を上げるための施策である。松竹梅をしっかりと考えて上位プランを用意し、それを魅力的に見せることで、1回あたりの購入単価を増やすことができる。より玄人向けのコースや、レベルの高いガイドがアサインされたプログラムを準備しておき、上位に乗り換えていくモデルだと考えていけるとよいだろう。
クロスセルとは、顧客が利用・検討しているサービスとは違う商材を提案し、客単価を上げるための施策である。アップセルが、利用・検討しているものとは違うものに乗り換えてもらう施策であることに対して、クロスセルは追加のサービスを購入してもらう施策だといえる。体験だけでなく、特別ランチをオプションで付けていくことや、限定の特別アイテムを追加購入してもらう展開等が考えられる。
そもそもアップセルやクロスセルは、消費社会の変化によって導入されたマーケティング手法だといわれている。これまでの人口増加時代・大量消費時代においては、認知度向上こそが大事な手段となっていた。しかし、昨今の人口減少時代においては新規顧客の獲得が難しく、顧客単価の向上こそが重要となり、より注目されるようになってきている。
これらを通して、単価アップによる売り上げ向上はもちろんのことであるが、それ以上に一つの窓口においてしっかりと顧客ニーズを聞き出し、一貫したストーリー性やサービスクオリティを担保しながら、地域滞在の満足度向上につなげることで、よりファンとなってもらい、リピーター確保や友人への紹介等による好循環を実現することができる。この価値は非常に大きなものであり、最終的に経営の安定化やブランディングにもつながるものである。
こうした好循環実現のためには、各地域において地域全体でのトータルコンセプトや提供価値が統一されていることが重要である。また、各事業者同士のつながり、顧客接点のハブ化といったことが期待される。
ここでカギになるのが、普段から地域内で連携して、アップセルやクロスセルモデルを準備できるかということと、窓口担当が滞在のコンシェルジュとして提案スキルを向上できるかだ。皆さんの地域における滞在満足度が上がり、その他多種多様な滞在可能性の期待感が高まれば、再訪の機会に、別のプログラムを体感してみたいという需要創出につながっていくに違いない。ぜひとも各地でこれらの観点から議論してみてもらいたい。
(地域ブランディング研究所代表取締役)