【私の視点 観光羅針盤 412】災害大国と観光立国 石森秀三


 本紙元旦号のこの欄で「今年は大波乱の年になる可能性が大である」と予測したが、新春早々に能登半島地震が発生し、甚大な被害・幾多の悲劇が生じていて心を痛めている。古くから「能登はやさしや土までも」といわれており、能登の人々の純朴な人情味が大好きでしばしば訪れる機会があった。私はかつて「石川県観光創造会議」の委員を務めたことがあり、能登半島における観光振興を応援してきただけに大災害のニュース映像に接するたびに涙が止まらなくなる。

 今回は大地震・余震・津波による各種の災害に加えて、奥能登の中核都市・輪島市で大火が発生し、朝市通りがある市中心部の200棟以上の家屋が全焼した。日本の三大朝市は輪島朝市、高山朝市、勝浦朝市であるが、輪島朝市は平安時代から続いており、最も古い朝市だ。室町時代から毎月4と9の付く日に開催され、明治時代から毎日開催されるようになった。私も6年ほど前に輪島朝市通り近くの古い旅館に宿泊し、妻と一緒に朝市に出掛けた記憶が鮮明なので、朝市一帯が全焼したというニュースは衝撃的であった。

 千年を超える由緒ある朝市の街並みが焼尽したので今後の復興を期待したいが、報道では「輪島市朝市組合の組合員はコロナ禍以前に240人だったが、現在は190人に減少。観光業が衰退する中で大災害を受けたので、朝市どころか、輪島市が復興できるか?」とのこと。能登地方は加速する過疎化と高齢化に悩まされてきた。若い世代が流出し、高齢者の多い地域を大地震が直撃したので災害復興は容易ではない。

 今後30年以内に70%の確率で首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震の発生が危惧されている。岸田政権は米国にこびへつらって防衛予算をやみくもに増額しているが、国防以前に防災大国の国民の生命や貴重な文化復興のために巨額の国費を投入すべきだ。

 今回の地震では能登半島の志賀町に立地する北陸電力・志賀原発が注目された。幸い原発は停止中であったが、電源トラブルが発生し、炉心溶融(メルトダウン)が危惧されたが予備電源のおかげで無事だった。また使用済み核燃料プールから汚染水が漏れ出したという報道や、空気中の放射線量を測定するモニタリングポストの故障に関する報道もある。改めて大災害に弱い原発に対する諸々の不安が明らかになった。

 正月2日には羽田空港で信じられない飛行機事故が発生した。羽田空港のC滑走路で日航旅客機と海上保安庁飛行機が衝突して、海上保安官5名が殉職し、日航機の乗員乗客379名の生命が危機に陥った。幸い奇跡的に日航機の乗員乗客は全員無事であったが信じられない事故だった。羽田空港は、アトランタ空港、ドバイ空港に次いで世界で最も混雑する空港であり、しかもC滑走路は離発着共用状態だった。安倍・菅政権の下でインバウンド観光立国が強力に推進されたが、管制体制が十全ではなかったために悲劇が生じた。

 観光立国を成功させるためには、やみくもに観光客数の量的拡大を小手先で図るだけでなく、さまざまな装置系と制度系の諸々の要素を複合的に勘案しながら、総合的に推進することが求められる。大波乱時代における観光立国のグランドデザイン策定が必要不可欠である。


(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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