
最近、国内旅行の機会が増えた。旅行のたびごとに強く感じるのは、外国人旅行者が著しく増えていることだ。例えば私はしばしば岡山を訪れているが、札幌から岡山への道中で飛行機に乗っても、新幹線に乗っても気軽に旅行している外国人の多さに驚くばかりである。コロナ禍以前と比べると若い世代の増加やインド人の増加などが顕著だ。
コロナ禍で苦境にあえいできた観光業界にとっては喜ばしいかぎりであるが、私のような後期高齢者にとっては旅行が煩わしくなっている。決して「観光公害」というほどの状況ではないが、私個人としては「観光嫌悪症」のような気分にとらわれつつある。
私は2003年に小泉純一郎首相の下で内閣官房に設置された「観光立国懇談会」のメンバーに選ばれ、観光立国政策の基本的方向性についての議論に加わった。その際の懇談会報告書の基本テーマは「住んでよし、訪れてよしの国づくり」であった。
ところが2010年代における観光ビッグバンをきっかけにして、安倍晋三政権・菅義偉政権の下で「観光の量的拡大」を前提にしたインバウンド観光立国政策が強力に推進されたが、コロナ禍でもろくも頓挫してしまった。ようやくコロナ禍が下火になり、いち早くインバウンドが回復しつつある中で、私自身はなんとなくいち早く「観光嫌悪症」を感じつつあるわけだ。
2007年にUNEP(国連環境計画)やUNWTO(世界観光機関)の支援を受けて、国際非営利組織GSTC(世界持続可能観光協議会)が設立され、持続可能な観光実現のための国際基準作成を行っている。またGreen Destinations(オランダの非営利団体)は持続可能な観光に関する認証・表彰を行っている。100項目の基準(景観保全、文化財保護、自然保護、地域社会への貢献など)に基づいて全世界の観光地評価を行い、毎年「世界の持続可能な観光地トップ100選」を公表している。
最終的にGSTC認証を受けるためには持続可能観光の100項目の基準を達成する必要があり、相当の歳月を要する。そのためGreen Destinationsは出発点として毎年「トップ100選」を選んでいる。22年には日本の10観光地が選ばれている。北から順に、釜石市、東松島市、那須塩原市、箱根町、南知多町、下呂温泉、小豆島町、大洲市、阿蘇市、小国町。
トップ100選に選ばれた後、ブロンズ賞(60項目以上達成)、シルバー賞(70項目以上達成)、ゴールド賞(80項目以上達成)、プラチナ賞(90項目以上達成)、GSTC認証(100項目達成)というステップアップが必要になる。当たり前のことであるが、持続可能な観光を本格的に達成するためには相当の歳月が必要ということだ。なお、観光庁は20年に「日本版持続可能な観光ガイドライン」を公表している。
近江商人はかつて「三方よし」を大切にして商売を行っていた。それは「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」であった。観光業者と観光客だけがよしではなく、観光を通して観光地の地域住民が幸せを感じることができ、地域の諸々の資源が適切に保全され、新しい資源の創出にも貢献することが求められている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)