10月下旬に札幌市で「NoMaps(ノーマップス)」と名付けられたイベントが開催された。
ノーマップスは米国の著名なSF作家ウィリアム・ギブスンへのインタビューを収録した同名のドキュメンタリー映画にちなんで命名され、「地図なき領域を開拓する」という願いが込められている。
ノーマップスは2016年にプレイベントが行われ、毎年開催されているが、コロナ禍によるオンライン開催を経て、3年ぶりのリアル開催だ。
ノーマップスは、(1)クリエイティブ産業の活性化と他産業への波及(2)創業支援・新産業の創造・投資の促進(3)クリエイティブな市民文化の醸成(4)札幌・北海道の国際的知名度・魅力の向上(5)「世界屈指のイノベーティブなまちSAPPORO」の実現―が目的である。
ユネスコは04年から創造性を持続可能な開発の戦略的要素として認識している都市間の協力を目的にして「ユネスコ創造都市ネットワーク」を発足させた。札幌市は13年にそのネットワークのメディアアート分野で加盟が認められ、ノーマップスは創造都市としてのさらなる発展を促進するための中心的事業だ。
ノーマップスは民間企業、官公庁、教育機関などの連携で運営されているが、実行委員会の委員長はクリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏が務めている。伊藤氏は優れたクリエイターで、「現代のIT技術が生みだした新たな文化の象徴的存在」とも評価されているバーチャルシンガー「初音ミク」の生みの親である。
ノーマップスは未来に向けて切磋琢磨する人たちが集い、アイデアを広げ、気づきを共有しながら、新たな領域を切り開くための出会いと発見があふれる場の提供を目指している。
具体的には、(1)カンファレンス(意見交換の場)(2)展示(コミュニケーションの場)(3)イベント(クリエイティブな体験を提供する場)(4)交流(異業種・異世代がコラボレーションを創る場)(5)実験(新しい可能性探求の場)―などの多様な場が盛り込まれている。
今回、次世代インターネット「ウェブ3」に関する本格的討論が道内で初めて行われた。「ウェブ3」は暗号資産などで用いられる高度なデータ保護が可能な技術をもとに、GAFAと呼ばれる巨大IT企業など特定の管理者を介さず、ネットワークの参加者がデータを管理しようという考え方だ。
また、スタートアップ(新興企業)などをテーマにした「ヒトとデジタルが共存するミライ:スタートアップが目指すべき市場とは」「コム商材をフル活用して、北海道から未踏的な高度IT人材を目指そう!」「地域発スタートアップの今とこれから」など40本以上の討論集会が開催された。さらにノーマップスの魅力は連日夜に開催されるミートアップ(交流会)にあり、ビジネスからアート、エンタメなどジャンルを超えた人々の出会いでにぎわった。
ポストコロナの観光産業は「地図なき領域を開拓する」チャレンジが必要不可欠であり、ノーマップスを通して数多くの学びや気づきを得ることが可能と感じた。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)