【私の視点 観光羅針盤 332】スペースツーリズムの展開 石森秀三


 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化よって、市民虐殺事件が発生しているために国際司法裁判所(ICJ)は戦争犯罪として本格的調査を開始している。

 日本ではコロナ禍が収束しないままに世界経済の不安定化に伴って諸物価が上昇しており、庶民の暮らしに影響を与えている。ゴールデンウイークには前年よりも多くの人々が旅行を行うという予測がなされているとはいえ、観光需要の本格的回復にはほど遠い状況が続いている。

 観光業界が苦しんでいる中で「スペースツーリズム」の分野だけは大きな進展が生じている。アマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏は自らが起業した宇宙企業ブルーオリジン社の宇宙船「ニューシェパード」を昨年7月に打ち上げて、米企業では初となる民間客の有料宇宙旅行を成功させて、世界的に話題になった。

 今年4月9日には米国スペースX社のクルードラゴン宇宙船が4人の民間人を乗せて国際宇宙ステーション(ISS)に到着したと報じられた。これは米企業アクシオムスペース社が企画した宇宙ツアーでISS滞在を含めて10日間の宇宙旅行であった。ただし旅行者は1人68億円という超高額料金を支払ったといわれている。

 米国の航空宇宙局(NASA)が支援しており、旅行者はISS滞在中に地球観測などを行い、「民間宇宙飛行士」としての役割を果たしたと強調されている。アクシオムスペース社は今後も超豪華な宇宙ツアーを計画中であり、商用宇宙ステーションの建設も予定していて、24年に4人用の居住棟を打ち上げてISSに接続させる予定だ。NASAも宇宙の商業化に積極的であり、宇宙ビジネスの多様な展開を奨励している。

 スペースX社の創業者でCEOのイーロン・マスク氏は「フォーブス世界長者番付2022」で首位に位置付けられ、保有資産が2190億ドル(約27兆円)とのこと。またブルーオリジン社の創業者ジェフ・ベゾス氏は第2位で保有資産は1710億ドル。世界長者の最筆頭格が宇宙ビジネスの最前線を切り開きつつあり、スペースツーリズム分野の大躍進を先導していることは興味深い。

 そのような状況の中で、国際連合のグテレス事務総長は「億万長者が宇宙旅行を楽しむ一方で、この地球上では何百万人が飢えで苦しんでいる」と批判している。

 またマスク氏が火星への移住計画を提唱し「何万人、最終的には何百万人の人々を火星に送り、そこから他の星を探査する」と述べていることに対して、地球環境問題を重視している英国のウィリアム王子は「宇宙旅行には全く関心がない。世界最高の頭脳は移住先を探すのではなく、地球の修復に集中すべきだ」と批判している。

 私は閉所恐怖症なので、宇宙旅行にそれほど関心がない。しかし「500万年前にアフリカの森に住んでいた霊長類のうち人間の祖先は森を出てサバンナに降りることで人間に進化した」という説との関わりで、「地球から宇宙に出ていく人類が新たな進化を遂げるかもしれない」という意見も傾聴に値すると感じている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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