【私の視点 観光羅針盤 318】ニッポン フード シフト 石森秀三


 オミクロン禍によって重苦しい初春を迎えている。米国では新年早々に1日当たりのコロナウイルス感染者が過去最多の100万人を超えた。日本でも沖縄、山口、広島の3県にまん延防止等重点措置の適用が決まった。

 米国や英国では過去最多の感染者が発生していながら、経済活動に関する厳しい規制強化は実施されていない。ところが日本では医療逼迫(ひっぱく)の回避を前提にして、経済活動に対する規制強化が検討されている。例えば、政府は再開を検討している観光支援策「Go Toトラベル」事業についても、感染状況が落ち着くまで再開は難しいとの見方を示している。「Go Toトラベル」事業の再開をきっかけにして旅行需要の回復に弾みをつけたかった観光業界にとっては痛恨の極みであろう。

 そのような厳しい状況の中で、1月10日に農林水産省と47都道府県の合同企画に基づいて、北は北海道から南は沖縄までの54の主要地方新聞社によって「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT」と題する大々的な意見広告が掲載された。その骨子は次の通り。

 「『食』は人を育み、生きる力を与え、そして社会を動かす原動力となるもの。すべての人は『食』と無関係で生きることはできません。日本社会が大きな変化に直面している今、これからの『食』はどうあるべきか。私たちが真摯(しんし)に向き合わなければならないテーマは少なくありません。(中略)『食』について考えることは、これからの社会を考えること、人の生き方を考えること。変えるべきは変え、守るべきは守り、新しい挑戦を応援しながら、今こそこの時代にふさわしい日本の『食』のあり方を考える機会ではないでしょうか。消費者、生産者、食品関連事業者、日本の『食』を支えるあらゆる人々と行政が一体となって、考え、議論し、行動する国民運動、『ニッポン フード シフト』が進行中です」。

 農林水産省は「食料・農業・農村基本計画」に基づいて、農は「国の基」との認識を国民全体で共有し、官民が協働して、食と農とのつながりの深化に着目した国民運動として「ニッポン フード シフト」を昨年7月からスタートさせている。社会の変化に呼応して「食」のあり方が多様化しており、日本各地でさまざまな人々が新しい「農」に挑戦している。特に今回は「食」の未来を担う若い世代のさまざまな取り組みに焦点を当てている。

 人間にとって「食」と同様に「旅」もまた極めて重要な暮らしの要素である。上記の意見広告の「食」を「旅」に置き換えても同様の社会的意義がある。しかし日本では長らく御三家(旅行業、宿泊業、運輸業)が「旅」を牛耳ってきた。そのために為政者がいかに「観光立国」の重要性を強調しても、多くの国民は観光が「国の基」とは認識できていない。コロナ禍の長期化によって、観光よりももっと大切な物事が軽んじられてきたことを実感しているのが現状だ。観光庁や観光業界はもっと謙虚に「日本観光の危機」を認識し、より多くの国民に観光の重要性を理解してもらうことが必要不可欠であろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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