【私の視点 観光羅針盤 294】襟裳岬の緑化を映画に 石森秀三

  • 2021年7月12日

 森進一の往年の大ヒット曲「襟裳岬」は「襟裳の春は何もない春です」というフレーズが繰り返される。2006年に神戸から北海道に移住した新参者の私は「何もない」といわれる襟裳岬を早く訪れたいと思った。

 幸い、北大に移籍して間もなく襟裳岬を訪れる機会があった。私の第一印象は「何もない」どころか、雄大な自然景観に恵まれ、食材も豊富でおいしい料理を味わうことができ、なによりも地元の人々が素朴で温かみを感じさせてくれたので、一挙に襟裳岬ファンになった。

 「襟裳岬」は1974年1月に森進一のシングルとしてリリース。累計売り上げは100万枚を記録し、その年の日本レコード大賞と日本歌謡大賞を同時受賞。作曲は吉田拓郎、作詞は岡本おさみ。

 真偽のほどは不明だが、岡本氏は初めて襟裳岬を訪れた際に非常に寒いので近くの民家を訪れたところ、老夫婦が快く迎え入れてくれて、「何もないですが、お茶でもいかがですか」と言って出されたお茶が飛び切りおいしかったらしい。要するに「何もないような荒れた土地ではあるが、人情がある春です」という意味が込められているようだ。

 襟裳岬はかつて広葉樹の原生林で覆われていたが、明治以降に開拓民が移住し、木々の伐採、牛・馬・綿羊の放牧などで原生林が切り開かれ、襟裳岬特有の強風にさらされて、大地は砂漠化し「襟裳砂漠」と呼ばれた。砂漠の赤土は強風で舞い上がり、岬沿岸の海は黄色く濁った。赤土を被って海藻類は根腐れし、魚類の獲れ高も激減。53年に浦河営林署を中心にして岬の緑化事業がスタート。

 植物の種をまき、苗木を植林しても強風に吹き飛ばされて緑化は難航。最終的にクロマツが最適ということが分かり、緑化事業が軌道に乗り、約50年の歳月を経て、クロマツ林が豊かに成長。「森は海の恋人」といわれるように緑化の成功に伴って魚類が戻ってきて、豊かな漁場が復活。緑化に着手した頃のえりも町の漁獲高は約70トンであったが、現在は3千トンに増加。

 緑化事業で豊かな漁場を復活させた実話を基にして映画「北の流氷(仮題)」の制作準備が始まっている。えりも町と近隣の浦河町、様似町、広尾町が協力して、23年の公開を目指している。浦河町出身の田中光敏氏が監督を務め、脚本はNHK大河ドラマ「天地人」(09年)などで知られる小松江里子さんが担当。

 実は84年に厳しい寒気の南下に伴って流氷が襟裳岬近くに漂着。流氷が沖合に去る時に岩礁をこすり、海底に積もっていた土砂を運び去り、豊かな海が復活するための大掃除をしてくれたことが地元で語り継がれており、映画タイトルが「北の流氷(仮題)」になった。

 えりも町、浦河町、様似町、広尾町は各町共に、ふるさと納税寄付金の使い道として「映画『北の流氷』(仮題)製作の実現」という指定項目がある。コロナ禍の継続で暗い話題ばかりが多いので、「何もない襟裳岬」の素晴らしさを題材にした映画製作の支援で気持ちを明るくすることも大切と思い、紹介させていただく。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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