10月26日に召集された臨時国会で、菅義偉首相は就任後初めて所信表明演説を行った。首相は成長戦略の柱に「グリーン社会の実現」を位置づけて、「2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにする」と述べ、「脱炭素社会の実現を目指す」と宣言した。さらに「脱原発」に踏み込むかと思いきや「安全最優先で原子力政策を進める」と明言した。
北海道ではいま、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定をめぐって論争が継続している。北海道で唯一の原発が立地している泊村のすぐ近くの寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村では核のごみの最終処分地選定に向けた第1段階の文献調査が行われる見通しになっている。
政府は「核のごみ捨て場」建設に至る調査を、文献調査、概要調査、精密調査の3段階に分けている。そして文献調査に応じるだけで、当該自治体に2年間で最大20億円の交付金が振り込まれる。概要調査に進むと、政府は70億円を交付する。
北海道新聞社は二つの自治体で文献調査が行われる見通しとなったことを受けて、10月下旬に全道世論調査を行っている。その結果、文献調査の実施に「賛成」13%、「どちらかと言えば賛成」18%、「反対」39%、「どちらかと言えば反対」27%になり、反対派が合計で66%を占めている。
核のごみ処分場は究極の迷惑施設なので「施設の必要性は認めてもわが家の近くはダメだ」というNIMBY(Not In My Back Yard)意識が強く働くようである。
今後の日本の最重要課題の一つは「人口減少問題」である。日本の人口は2015年に1億2709万人であったが、45年には1億642万人に減少することが推計されている。特に北海道の場合はより深刻で、15年に538万人で45年に400万人に減少すると推計されている。寿都町は15年3128人で45年に1683人と推計され、神恵内村は15年1005人で45年に487人と推計されている。厳しい過疎地域の自治体なので、首長や議員や商工会などは文献調査に踏み込む意向である。
言うまでもなく、北海道は「日本の食料基地」であり、「生物多様性の宝庫」「観光資源の宝島」である。人口減少時代における「北海道の価値」を直視するならば、核のごみの最終処分場とは異なるさまざまな可能性が存在するはずだ。
現に寿都町や神恵内村のすぐ近くの岩内町ではすでにYuki Kamui株式会社が設立され、旧ニセコいわない国際スキー場をリフォームして、世界最高のパウダースノーとオーシャンビューのスキー場を売りものにしてIWANAI RESORTを開発する事業が推進されている。
自然や人と共生する長期滞在型リゾートの整備によって、岩内の魅力を世界に発信するとともに、市街地の活性化と雇用機会の創出による地域への還元が目指されている。「北海道の価値」をより良いかたちで生かしていこうと努力しているIWANAI RESORTの成功を心から応援したい。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)