【私の視点 観光羅針盤 260】安全保障としての食料 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三

  • 2020年10月19日

 毎年10月上旬は「ノーベル賞ウイーク」で毎日各種の受賞者が公表される。最近は毎年のように日本人研究者がノーベル賞を受賞して国中がうれしい気分になっていたが、今年は日本人受賞者が皆無で残念であった。

 今年のノーベル平和賞は「国連世界食糧計画(WFP)」に決まったことが、ノルウェーのノーベル委員会によって10月9日に発表された。WFPは飢餓のない世界を目指して活動する国連の食料支援機関で1961年に設立された。

 約1万7千人の職員の多くは途上国の現場で支援に当たっている。緊急時に命を救い、暮らしを守るとともにその後の暮らしの再建、慢性的飢餓や栄養不足を減らすことなどを目標にして活動している。

 ノーベル平和賞の授与理由として「飢餓と闘う努力」や「飢餓を戦争や紛争の武器として使うことを防止する努力」などが挙げられている。今回の授賞には、紛争や難民危機、相次ぐ自然災害などによる飢餓に苦しむ人々が、新型コロナの大流行でさらに窮地に立たされている現状に世界の目を向けさせる狙いがある。

 国連は、最低限の食糧さえ入手困難な人は約1億5千万人とみなしていたが、新型コロナ大流行で深刻な飢餓に苦しむ人数が3億人に達する恐れがあると警告している。今回、ノーベル賞委員会は有効なワクチンが開発されるまでは「食料が最善のワクチンである」と指摘している。

 飢餓との闘いは貧困との闘いであり、紛争との闘いでもある。平和でなければ飢餓も貧困も撲滅することはできない。昨年、アフガニスタンで非業の死を遂げた人道支援活動家であった中村哲氏は、80年代から医師としてアフガニスタンで医療支援を行っておられたが、やがて医療活動からかんがい建設活動へと転じて農業支援に重点を置かれた。まさに中村氏の著書「医者、用水路を拓く」の通りであった。それは「食料こそが最大の安全保障」ということに気付かれたためであった。

 一方で米国のトランプ大統領は「自国第一主義」を掲げて、国際機関への拠出金を大幅に減額して、多国間協調を混乱させている。国連は創設75年を迎えているが、自国第一主義の広がりで多国間協調が混乱している。国連の全ての加盟国は「持続可能な開発目標(SDGs)」を共有しており、30年までにあらゆる貧困と飢餓の撲滅を目指している。

 日本の観光業界はSDGsに賛同しており、今回のWFPのノーベル平和賞受賞を祝うとともに、政府目標の「30年インバウンド6千万人」を達成するためには多国間協調が不可欠であることを再認識すべきであろう。また、より良い日本観光の推進には各地域におけるおいしい食材を最大限に生かすことが必要であり、そのためには常日頃から優良農家との緊密な連携・協調を大切にすることが不可欠である。「自企業第一主義」ではなく、地域との緊密な連携・協調主義こそが「日本観光の未来を拓く王道」であろう。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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