【私の視点 観光羅針盤 239】オンラインツアー・体験に可能性あり 地域ブランディング研究所代表取締役 吉田博詞


 緊急事態宣言が延長され、生き残りにより知恵が求められるようになっている。今後の観光需要の回復に向けて、オンライン体験・バーチャルツアーといった企画が話題になってきた。私自身、こんな中途半端なもので、観光客の満足など得られるはずもないと感じていた1人である。

 ただ、私も「百聞は一見に如かず」と巣ごもり生活のゴールデンウイーク中に、日本各地、そしてデンマーク、イギリス、ポルトガル、アルゼンチン、南アフリカと世界各地の体験に参加してみて考えが大きく変わった。

 オンライン上の同じ時間にZoomを通して、欧米豪を中心とした世界各国のお客さんが参加していた。多くの人がロックダウン中で家にいる中、旅行で得られるような異文化との交流、それも一方的な映像配信でない、リアルに即時で対話できる人と時間を一緒に過ごすことに価値を感じているなと気づいた。

 例えば、タンゴのリアルコンサートを聴きながら踊ったり、一緒に僧の合図をもとに瞑想(めいそう)して自然を感じたり、歴史情報を聞いてその場をもっと知りたくなったりと、リアルにコミュニケーションをとりながら、人とのつながりを感じられ、心が充足していた。

 企画のレベルにもよるが、旅行に求める異日常、刺激、交流、癒やし、そして感動という要素をオンライン上でも再現されているものは満足度も高く、実際のものを体験したくなっており、旅行が解禁されたら第一の候補になってきそうだ。

 現在、Airbnbがオンライン体験においてはフロントランナーであり、トリップアドバイザーや日本国内サイトも続々とメニューを充実させている。着実にユーザーの満足度が高まり、オンライン体験のリピーターも増えてきて、そこに新たな市場が生まれているからだ。

 現状のオンライン体験の特徴を整理しておきたい。だいたい1時間から1時間半で千円~3千円程度が参加費となっている。世界中の人がどこにいても気軽に参加でき、提供側は制限下においても一定の収入源を確保できるといったところがポイントだ。顧客接点をなかなか持てない今だからこそ、既存商品の磨き上げや顧客理解、そして未来の顧客開拓につながっていく余地がある。

 このオンライン体験、今はブームですぐに廃れるとの声も聞くが、参加してみるとそんなことはないと実感している。どこかに行きたい、何かをやってみたいという時、これまではプロモーションの映像を見て、一方的な発信情報から興味を喚起していた。

 しかし、このオンライン体験が一般化していくことにより、まずはオンラインで気軽に体験してみて魅力的だと感じたら、その人に会いに旅に行くというスタイルは今後の効果的な誘客手段の一つとして残っていくだろう。

 一時的な現象として捉えるのではなく、コロナによって時代が大きく変わっている中で、オンライン体験という収入源と未来のファン獲得手段という販路の整備、商品の磨き上げという貴重な機会を取り込んで、少しでも未来の希望をつかんでほしい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 
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