【私の視点 観光羅針盤 232】コロナ感染症とコロナ恐慌 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 昨年12月に中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)は、今年3月に入って新しい局面を迎えた。WHO(世界保健機関)は3月11日にコロナについて「パンデミック(世界的大流行)」と表現できると判断した。

 パンデミックは、ギリシャ語のパン(全ての)とデモス(人々)が語源の英語で「世界中の人々に感染する可能性のある病気が、制御不能で大規模に流行している状態」のこと。
 当初、コロナは東アジアを中心に感染拡大していたが、すでに全世界で感染者が生じており、WHOはコロナ流行の中心地が欧州に移ったとの見解を公表。特にイタリアは世界で2番目に数多くの感染者と死者を出しており、コンテ首相は北部14県で約1500万人を対象にした移動制限令を発令。

 トランプ米大統領は3月13日にコロナ感染拡大を受けて「国家非常事態」を宣言。最大500億ドル(約5兆4千億円)の連邦予算の活用を可能にし、検査と治療態勢の強化を公表。併せて欧州からの30日間の外国人入国禁止措置も発動させ、約400万人が影響を受けると試算されている。

 日本政府もすでに中国と韓国からの入国制限の強化(発行済み査証の無効、短期滞在の査証免除の停止)を3月9日から実施している。韓国政府は直ちに対抗措置として日本人に対する同様の入国制限強化を行っており、日韓両国は新たな火種を抱え込んでいる。

 コロナ感染拡大で世界的な景気後退懸念が強まっており、3月に入ってから主要国の株式市場で記録的な株安連鎖が発生。株価の下落率は1987年10月の大暴落「ブラックマンデー」以来の大きさで、世界経済に深刻な影響を与え始めており、「コロナ恐慌」への警戒感が生じている。トランプ米大統領は株価急落で経済に打撃が広がり、強力な指導力を発揮しなければ11月の大統領選での再選に影響することを危惧している。

 日本においても、コロナ感染拡大の影響で観光需要や個人消費の急激な減退が生じており、もはや観光業や飲食業だけでなく、製造業や流通業などを含めて幅広い業種に深刻な影響が及んでいる。

 東京株式市場でも世界的な株安連鎖の影響で大暴落が生じており、市場関係者もコロナ不況がどこまで長引くのか判断に苦しんでいる。その上に投資家のリスク回避姿勢が強まったことで円高が生じており、日本企業の業績悪化への懸念が高まっている。今後、中小・小規模事業者の倒産が相次ぐ恐れがあり、倒産しなくても事業に見切りをつけるケースの増加が懸念されている。

 トランプ米大統領は「東京五輪は1年延期が望ましい」と発言して物議を醸したが、コロナの世界的大流行によって東京五輪開催も不透明化している。すでに観光立国どころではない厳しい状況が現出しており、観光産業は官依存を脱して、真剣に独自の経営革新に取り組むことが不可欠になっている。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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