観光庁は1月中旬に2019年の訪日外国人旅行者数を発表した。訪日旅行者総数は3188万人で、前年(3119万人)の微増にとどまった。日韓関係の諸々の悪化によって、韓国人客が前年比約26%(195万人)減の558万人にとどまったことが影響している。
19年のデータを見てみると、前年比の伸び率マイナスは韓国人客だけであり、東南アジア諸国からの訪日客は順調に増えており、またラグビーW杯の効果で欧米諸国からのビジターも増えている。とはいえ、日韓関係の劇的改善が見込めないために「20年インバウンド4千万人」という政府目標の実現に黄信号が点滅している。
同様に19年の訪日客の旅行消費額は4兆8113億円にとどまっており、「20年に8兆円」という政府目標の達成は困難になっている。
日本の観光立国に黄信号が点滅する中で、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の拡大が全世界に波及している。中国では春節(旧正月)の大型連休が始まり、中国国内のみならず、日本を含めた諸外国に数多くの中国人観光客が訪れる段取りであった。
札幌では恒例の雪まつりが1月末から2月11日まで3会場で開催予定であり、数多くの中国人客の来訪が期待されている。ところが中国政府は新型肺炎の拡大を防ぐために、1月24日に国内団体旅行を停止させ、27日には中国から海外への団体旅行の停止措置を講じた。併せて、旅行会社が航空券と宿泊をセットで手配する個人旅行も停止させている。
新型肺炎の発症者は世界的規模で確認されており、今後も感染拡大が懸念されている。その上、感染過程でウイルスが変異する(感染力が増す)可能性があり、中国政府やWHO(世界保健機関)はメカニズムの解明を急いでワクチンの早期開発を成功させ、感染拡大のリスクを最小限に止める責務がある。
中国では02年にSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生し、12年には中東地域でMERS(中東呼吸器症候群)が発生している。いずれもコロナウイルスによる感染症で、世界的に感染が拡大した。
このたびの新型肺炎の発生によって、中国人客の訪日旅行キャンセルが相次いでおり、日本の観光立国戦略に与える痛手が強く懸念されている。中国人客と韓国人客は訪日外国人旅行者総数の約半数を占めており、今後の成り行きが注目されている。
7月から東京オリパラが始まるが、新型肺炎対策だけでなく、テロ対策、台風や集中豪雨などの自然災害対策でも万全を期す必要がある。東京オリパラを契機にして、数多くの外国人ビジターの受け入れが必要になるが、万全な受け入れの成否が今後の観光立国の行方を左右することになる。
民産官学の協働によって東京オリパラを成功させ、日本の観光立国を着実な軌道に乗せることが期待されている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)