【私の視点 観光羅針盤 212】消費増税と旅行減税 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 10月1日に消費税増税が実施された。米中貿易戦争の影響で中国やドイツなどの輸出国を中心にして景気が落ち込んでおり、世界経済の先行きが不安定化している。そのために「本当は消費税増税を延期すべき」という意見も出されていたが予定通りに増税が実施された。

 消費税率の10%への引き上げで個人消費は数兆円規模で失われると予想されており、政府は有効な景気刺激策を講じる必要がある。ところが安倍政権のアベノミクスは大胆な金融政策が基本であり、有効な景気対策が十分に講じられないままに世界経済の危機が本格化しつつある。世界経済が減速期に向かう中で外需に期待できないために、今後は国内消費の活性化による内需拡大が不可欠になる。

 観光産業は裾野の広い産業であり、国内消費の活性化による内需拡大に大きく貢献できる分野である。しかしその一方で、景気の落ち込みによって日常生活が厳しくなってくると、観光は真っ先に「不要不急」とみなされて影響を受けやすい分野でもある。

 ここで改めて、2007年1月から施行されている「観光立国推進基本法」を振り返っておきたい。基本法の前文には「観光は、地域経済の活性化、雇用の機会の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、健康の増進、潤いのある豊かな生活環境等を通じて国民生活の安定向上に貢献するものであることに加え、国際相互理解を増進するものである」と記されている。

 現在の日本が必要としているのは内需拡大による国内経済の活性化であり、まさに基本法の精神に基づいいて観光立国推進戦略を練り直す必要がある。政府はインバウンドを基軸にした観光立国政策を推進しているが、それに加えて国民生活の安定向上に貢献するための施策の一つとして、ぜひとも「旅行減税」を実施すべきである。

 日本では現在、国民による旅行需要が減り続けており、旅行機会の増加を図る必要がある。旅行を行うことによって、健康が増進され、家族の連帯が強まり、文化や自然への関心が高まるとともに、世界に目が向けられるようになる。

 消費税増税分は「全世代型の社会保障(年金、医療、介護、子育て)改革」に充てるといわれているが、現実には「大企業優遇型法人減税」の補填(ほてん)のためではないかと揶揄(やゆ)されたりしている。安倍政権はすでに各種の法人減税を実施しており、その結果として大企業は史上最高益を上げているが、一方で個人消費は冷え込み、景気は低迷したままである。

 観光業界は観光立国推進基本法の精神に基づいて今後とも旅行減税の必要性をアピールし続けるべきだ。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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