【私の視点 観光羅針盤 197】観光は「平和へのパスポート」は本当か せとうち観光推進機構事業本部長 村橋克則


 国連が「観光は平和へのパスポート」というスローガンを掲げたのが1967年。当時、1億人強(推定)であった国際観光客数(国境を超えて移動した人数)は2018年には13.2億人(国連世界観光機関)となった。半世紀で10倍以上の成長を実現し、今後もますます伸びていくと予測されている(30年には18億人)。

 スローガンが表すように観光は究極の平和産業だと言われる。わが国でも昭和42年度の運輸白書において「世界各国の人々の相互理解を促進し、種々の文明の豊かな遺産に対する知識を豊富にし、また異なる文明の固有の価値をより正しく感得させることによって世界平和の達成にも大きな役割を果たすもの」と観光の世界平和への貢献をうたっている。

 また、現在、JATA(日本旅行業協会)のホームページ上には旅(観光)の効用の一つとして、「国際あるいは地域間における相互理解、友好の促進を通じ、安全で平和な社会の実現に貢献できる」と明記されている。

 このように観光を執り行うサイドからは繰り返し、観光による平和の実現が自明のことであるかのように発信され続けている。直観的には正しそうではあるし、長く観光に携わってきた人間として、そうであってほしいという願望はある。

 しかし、過去の大戦は観光などで頻繁に交流のあった国同士が戦っているというのも事実だ。また、この50年、国際観光市場は10倍以上に拡大したが、地球上から戦争や紛争がなくなることはない。

 世界を取り巻く安全保障上の問題は複雑さを増し(テロのような新しい戦争の出現)、危機感はいっそう高まっている。

 平和が保たれてこそ観光が成り立つという平和と観光の関係性に異論の余地はないだろう(実際、大きな紛争があるたびに、市場は冷え込んだ)。

 一方、観光によって平和がもたらされる、平和の創造に観光が役立つという方程式は果たして成り立つのだろうか? 

 私も含め、多くの人が直観的に信じているように、観光の持つ特質の中に戦争・紛争に対する抑止力や、平和への効果因子が内在していることは間違いないであろう。しかし、歴史的には証明されていない。その因子を抽出・特定することで、感覚的な議論に終止符を打ち、観光による平和促進を具体的な施策に落とし込み、その効果を定量的に検証できるレベルにまで推し進めるべき時期が来ている。

 今や、地方創生の切り札とも言うべき外国人観光客誘致(インバウンド)。単に経済・雇用面の効果のみにフォーカスするのではなく、平和貢献という大きなミッションを持った施策に引き上げることで、国民的な動きにつなげていきたい。その先に観光産業のさらなる発展が見えてくるはずだ。

 このような考えを持つに至ったのも国際平和都市・広島という地で観光振興の仕事に携わったことと無関係ではない。私を育ててくれた観光産業への恩返しとして、今後もこのテーマを追究し続けることを心に決めている。

(せとうち観光推進機構事業本部長)

 
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