「ウチは観光地じゃないから、自慢できる観光資源なんて何もないんです。どうしたらいいですか?」。先日、講演で訪れた町でそんな質問を受けた。「観光地じゃない???」。思いも寄らない質問にやや戸惑ったものの、こんなやりとりで場を収めた。
「ではAさんの考える観光地ってどこですか?」「京都とか北海道とか」「確かに有名観光地ですね」「ではこの地域には、域外からのお客さまは1人も来ませんか?」「いや、そんなことはない。年間に数千人は来ていると聞いている」「そのお客さまはここで何を楽しんでいらっしゃいますか?」「のんびり散策をしたり、自然観察を楽しんでる人が多いかな」「立派な観光地じゃないですか」
観光資源というと雄大な自然景観や歴史的な観光施設など、なにか「すごい」ものを思い浮かべがちだ。そして、自地域にそうした武器がないことで、戦意喪失しているエリアが多い。そもそも観光資源とは何なのか。ちなみに広辞苑によれば、観光資源とは「多くの観光客を集め利益をもたらす名勝・遺跡や温泉」とある。字義通りにとれば、その町は「何もない」のかもしれない。しかし、本当にそうだろうか。
静岡県の富士宮市は「やきそば」を最大の観光資源にして、年間600万人近い観光客を集めているし、広島県竹原市の大久野島の観光資源はウサギだ。今やウサギ目当てに世界中から観光客が集まるが、10年前は島民もまさかウサギが観光資源になるとは思ってもみなかったようだ。
愛知県などが力を入れているメディカル(医療)ツーリズムの観光資源は病院や医療技術だし、近年、全国的に広がりを見せている産業観光の目玉は工場夜景だ。なんだって観光資源になりうるし、日本全国津々浦々、観光地になり得るのだ。川崎市の工場に勤務している人は、自分が観光地で働いているとはゆめゆめ思いもしないだろうが。
こんなのもある。北海道や沖縄のいくつかの市町ではスギ花粉がない(少ない)という地域特性を生かしてリトリート(転地療法)ツアーを考案し、実施している。「ある」ものを見つけるのではなく、「ない」ものに注目したというのが興味深い。
徳島県三好市の大歩危祖谷(おおぼけいや)地区では、何もない不便なエリアということを「千年のかくれんぼ」というコンセプトに集約し、地域の魅力を発信して、国内外からお客さまを集めている。
せとうちDMOでは異文化好奇心の高い知的旅行者を主なターゲットとしている。彼らの訪日目的は「オーセンティック(真正)な日本」を体験すること。手垢の付いていない日本の原風景やそこに住む人々の普通の暮らしや営みに触れることだ。必ずしも有名観光地に行きたい訳じゃない。インバウンド観光が成長期から成熟期に入り、リピーターが増えることで、そうしたニーズがいっそう高まってくることは間違いない。
「何もない」と嘆く前に、視点を変え、地域を見直す必要がありそうだ。
(せとうち観光推進機構事業本部長)