【私の視点 観光羅針盤 191】社会貢献とビジネス せとうち観光推進機構事業本部長 村橋克則


 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)が主催する「人に優しい地域の宿づくり賞」の審査委員をかれこれ10年以上務めている。高齢者やハンディのある方々をはじめ、全ての人に優しい配慮がなされている宿泊施設や地域・団体の取り組みを表彰する制度で、今年で22回目となる歴史ある賞だ(最高賞は厚生労働大臣賞)。

 身体的なハンディを持つ方々に対するハード面での対応に限らず、地球環境への配慮、伝統・文化の継承、地域社会への貢献など、広く「優しさ」を定義し、観光業界の持続的な発展・成長を促すことを目的としている。

 2015年9月の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)の考え方「地球上の誰一人として取り残さない(Leave no one behind)」に近い考え方だ。近年、主流となりつつあるこうした考え方を20年以上前から唱え続けている主催者の慧眼には恐れ入るばかりである。

 さて、今年も審査会の季節がやってきた(最終審査は5月17日)。審査委員には毎年、全国各地からエントリーされたレポート30~40程度に目を通し、採点をするという宿題がゴールデンウイークの直前に課される。当然、締め切りはゴールデンウイーク明けすぐだ。取り掛かるまでは気が重いが、やり始めると楽しくて夢中になる。今年も一気に採点を終えた。

 レポートの内容は時代を映す。近年のエントリーの傾向として、外国人観光客(言語の壁や文化の違い)への対応、自然災害等(被災者受け入れ等)への備え、働き方改革への取り組み(従業員に対する優しさ)が数多く見られる。宿泊施設単独での取り組みよりも、地域を挙げての活動、知識や知恵の地域内での共有に力点が移ってきているのも最近の特徴だ。

 また、ボランティアや慈善事業的なものではなく、それぞれの取り組みがしっかりと集客やコストセーブといったビジネス上のメリットにつながるようしたたかに設計されている点が目を引く。

 一時期、手間やコストのわりにはビジネスにつながりにくいという理由で、エントリー数も低迷し、制度そのものに疑問が投げかけられることもあった。そうしたピンチを乗り越え、長く続けてきたことで、世の中の価値観が制度の主旨に追い付いてきたと言えるだろう。かの二宮尊徳は言っている。「道徳を忘れた経済は罪悪だが、経済を忘れた道徳は寝言である」。いつの世もきれいごとだけでは済まされないのだ。

 一方で課題もある。せっかくの良い制度も知る人ぞ知るというレベルにとどまっている。世間一般はおろか業界内でも知らない人がいる。エントリーする地域や団体の顔ぶれもやや固定化してきている。各地域の良い取り組みが広がり、知恵が蓄積され、業界全体のレベルアップにつながることこそ制度の意義だ。そのためには認知度の向上は欠かせない。主催組織および関係者のさらなる努力に期待するとともに、私も審査委員の一人として力を尽くしたい。

(せとうち観光推進機構事業本部長)

 
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