
札幌国際大学総合研究所でスポーツツーリズムの研究を行っている遠藤正教授は、スノーリゾート多様化の必要性を力説している。日本のスキー人口は1993年に1860万人に達してピークを記録したが、バブル経済の崩壊に伴って国内スキー人口が減少し続け、各地のスノーリゾートの衰退に拍車が掛かった。
衰退打破の特効薬はなく、スノーリゾート関係者が悩み続ける中で、劇的なインバウンドの増加による外国人スキー客の急増によって、日本各地のスノーリゾートは今、大きな変貌を遂げつつある。
遠藤教授は外国人スキー客が急増している今だからこそ、各地のスノーリゾートごとに中長期的戦略の構築が不可欠と助言している。要点は外国人スキー客を一括りにする対応の在り方では、将来的に外国人スキー客離れが加速する可能性があるという点だ。
例えば、欧米豪のスキー客はクリスマスや正月を中心にスノーリゾートに中長期間滞在し、スキーを満喫するライフスタイルがすでに確立されている。確かに毎年、新千歳空港で目撃する自分のスキー板を抱えた欧米豪のスキーヤーで混雑する風景がそれを証明している。
一方、訪日インバウンド急増中のアジア諸国からのスキー客は、まずスキー体験や雪体験が主目的であり、短期滞在が一般的だ。スキー用品は現地でレンタルしており、欧米豪との違いは明らかだ。
このように多様性のある外国人スキー客に対して、ワンパターンの対応が継続されると外国人顧客離れを促しかねないと遠藤教授は指摘する。
嗜好の異なる外国人スキー客のニーズに対応して、スノーリゾートごとの個性の打ち出し方や独自のビジネスモデルの構築が不可欠なのだ。
遠藤教授は昨年12月に米国モンタナ州ビッグスカイに存在する会員制スノーリゾート(イエローストーンクラブ)を調査している。このクラブの会員になるためには、会員資格取得の初期費用が40万米ドル、年会費が約4万2千米ドル、さらに数百万米ドルの不動産(リゾート内での別荘)取得などが条件となる。
会員制スノーリゾート内には体育館、映画館、レストラン、託児所、プロショップなど富裕層を満足させる施設が整っている。スキー場を含め、それらの施設は会員と家族、ゲストのみに利用が限定されている。
完全な会員制スノーリゾートであるイエローストーンクラブの事例が、そのまま日本のスノーリゾートに導入可能にはならない。しかし日本のスノーリゾートが外国人スキー客を一括りでビジネスを進める中で、遠藤教授の講演を聞きながら、富裕層のスキーヤーに対する会員制プライベート・スキーリゾートを成功させている米国の先進的事例から学べることは少なくないと感じた。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)