【私の視点 観光羅針盤 183】観光産業の正体 せとうち観光推進機構事業本部長 村橋克則


 観光が地域にもたらす経済効果や雇用効果への期待が高まっているが、それを実現する観光産業とはいったいどんな産業なのか。地域の成長を担うべきプレーヤー(企業・事業者)は誰なのか。その正体を明らかにしておきたい。

 比較対象として自動車産業を見てみる。ウィキペディアには「自動車および自動車部品の生産、販売、利用、整備に関連した産業」とある。端的に言うと、自動車を作って、売って、付随サービスを提供する産業だ。主なプレーヤーはトヨタや日産、ホンダといった自動車メーカーおよび販売会社、ディーラー。もう少し広義に解釈すれば、部品メーカーあたりも含むだろうか。明快だ。

 一方、観光産業のプレーヤーはどうだろう。旅館・ホテル、旅行会社、土産物店は分かりやすい。鉄道、航空、バス会社も含めてよさそうだ。では、これはどうだろう。京都の清水寺近くのコンビニエンスストア。お客さまの多くは観光客だと思われる。このコンビニ、観光産業プレーヤーといえないだろうか。

 東京・青山には東アジアからたくさんのお客さまが訪れる。目的は髪をカットすること。日本のカット技術は素晴らしく、わざわざ飛行機に乗ってまで通う価値があるのだ。この美容室・サロンを観光産業プレーヤーに数えたら叱られるだろうか。東京ビッグサイトや幕張メッセで行われるアニメやゲームのショーには世界中から人が集まる。このイベント、観光産業に含めることに異論はあるだろうか。観光産業の範囲・定義は難しい。

 そこで、私は観光産業を「地域外からの来訪者をメインの顧客とする全ての業種」と定義することにしている。提供する商品やサービスによって、産業や業界は定義されるのが普通だ。それに対して観光は、その顧客特性(ビジターであること)によってしか定義することができない特殊な産業といえる(ちなみに日本標準産業分類に「観光業」というカテゴリーは存在しない)。

 こんな話も紹介しておきたい。瀬戸内はしまなみ海道を中心に海外からサイクリング目的のお客さまがたくさん訪れる。数十万から百万円を超えるMY自転車を自国から持参される方も多い。そこで、せとうちDMOでは、日本航空さまと共同で、梱包が簡単で、破損の恐れが極めて低い自転車専用輸送ボックスを開発した。これによって新しい売り上げを獲得するのはボックスを製造する町場のダンボール工場だ。この会社を観光産業に含めるのはやや無理があるかもしれない。ただ、観光の裾野の広さ、経済波及効果の大きさを示す事例だ。

 このようにつかみどころのない、業際のあいまいな観光という産業はさまざまな企業・事業者にチャンスがあるとも言える。一見、観光とは縁がなさそうでも交流人口の増加を自社の発展や成長につなげる事業機会を見つけることは十分に可能だ。探す努力を怠らないでほしい。その気付きを与えることもわれわれの大切な仕事と肝に銘じておく。

(せとうち観光推進機構事業本部長)

 
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