【私の視点 観光羅針盤 125】文化財保護と観光振興は車の両輪 清水慎一


 政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」において、「文化財を保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」という方針を掲げて以来、文化財と観光をめぐる論議が活発になった。今年春に、当時の地方創生担当相が「一番のがんは文化学芸員だ」と発言して物議を醸したことも、記憶に新しい。

 言うまでもなく、観光にとって文化財の活用は必須だし、そのためには文化財の保存や本物を追求した復元が欠かせない。一方、膨大なコストがかかる文化財の保存や復元には観光関係者など住民の理解が不可欠だ。にも関わらず、地域では観光関係者と文化財専門家の接点は少なく、建設的な議論がされていない。

 こんな現状を踏まえ、単なるスキー観光を脱却し、歴史・文化を生かした通年観光を目指す雪国観光圏では、構成7市町村の教育委員会担当者や学芸員と観光関係者が集って、平場で議論する「雪国文化ワーキンググループ(WG)」を設置した。座長には、津南町教育委員会の佐藤雅一さんが就任。WGでは、雪国の特性を専門家の立場から整理し、その恵みとしての豊かな食文化を冊子にまとめた。その議論は観光圏のブランドコンセプト「真白き世界に隠された知恵に出会う」に結実した。昨年度は中世の街道と城址などに光を当て、「上杉謙信越山の地」を上梓した。

 先日は、これら3年間の成果を広く住民に周知するために、「文化財を活かした観光振興を考える」をテーマにシンポジウムを開催した。観光庁の米村猛さんや文化庁の水ノ江和同さんなどが参加し、翌日には城マニアのいなもとかおりさんのガイドによるエクスカーションも実施した。

 幸い、パネラーからは観光と文化の両立のための建設的な提起がなされ、会場参加者の共感を呼んだ。「観光関係者と文化財専門家は入り口が異なるだけで、地域において目指すものは一緒だ」「保存と活用は車の両輪。このバランスが崩れた時が怖い。観光のためと称した根拠のない復元が問題だ」などだ。

 また、みなかみ町教育委員会の田村司さんからは、大河ドラマで取り上げられた名胡桃城址の保存に関して、悩みが吐露された。時間や資金がなく本物の復元が貫徹できなかったこと、学芸員を減らされ1人になったことなどの実態は、文化財活用に熱心でも保存には無関心だった観光関係者に警鐘を鳴らしてくれた。

 WGの仕掛けをし、シンポジウムのコーディネーターを務めた筆者は、観光地域づくりにとって歴史・文化やその中心にある文化財の保存、活用は不可欠だと確信する。そのために、車の両輪である文化財保存と観光振興の関係者間の接点を、各地でもっと増やすように努めていきたい。

 (大正大学地域構想研究所教授)

 
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