コロナ禍落ち着き、関心高まる
橋やダム、港、トンネル、歴史的な施設などを観光資源として活用する「インフラツーリズム」。新型コロナ禍でここ数年はツアーを見合わせる動きもあったが、見学ツアーなどに再び関心が集まりつつある。施設の見学と市内の観光スポットを組み合わせたプランや、見学ツアーのチケットをふるさと納税の返礼品にするなどの動きも出ているという。
国土交通省の「インフラツーリズムポータルサイト」によると、インフラツーリズムでは巨大な構造物のダイナミックな景観を楽しんだり、普段は入れないインフラ内部や今しか見られない工事風景など非日常の体験を味わうことができる。
また、ガイドの案内を聞いたり、展示物を見て回ることで、インフラ施設の役割やつくられた背景を学ぶことができるほか、地域と連携した企画に参加することで、インフラ施設周辺の観光資源を楽しめるのも魅力という。
開催されているツアーには民間の旅行会社主催と施設管理者主催の2種類があり、管理者主催のツアーでは無料で参加できるのが多いことも人気の理由だ。
同省は「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」を立ち上げ、全国のインフラツーリズムを行っている地区からモデル地区を選定する社会実験を実施。これまで、2019年に5地区、20年に2地区のモデル地区を選定している。
今年8月4日には、▽青い池(美瑛川ブロック堰堤)と十勝岳火山砂防情報センター(北海道美瑛町)▽大源太川第1号砂防堰堤(新潟県湯沢町)▽亀の瀬地すべり対策(大阪府柏原市・奈良県三郷町)の3地区を新たに選定した。
23年度は地域の観光資源を活用したツアーの企画や持続的な体制づくり、24年度以降はインバウンド向け受け入れ態勢の構築、海外向けプロモーションの実施などに取り組む。
インフラツーリズムは広がりを見せており、日本商工会議所によると、宮崎・日向商工会議所はインフラと地域住民の関わりをテーマに奥日向3町村(椎葉村、諸塚村、美郷町)の魅力を発信するポスターを作成、併せて特設サイト「インフラサイドストーリー」をオープンしたという。
▷拡大
埼玉・春日部市の地下治水施設「首都圏外郭放水路」。まるで古代遺跡を思わせる光景から「地下神殿」とも呼ばれる。インフラツアーの人気コースだ(インフラツーリズムポータルサイトから)
★亀の瀬地すべり対策
●全国有数の大規模な地すべり対策事業で、集水井や排水トンネルの見学が可能。
●龍田古道や明治時代の鉄道トンネルなどを組み合わせ、歴史を紹介・学習する既存見学会の発展モデル。
大源太川第1号砂防堰堤
●1939年に完成したアーチ式砂防堰堤で、登録有形文化財、推奨土木遺産。
●砂防施設をツーリズムとして見せるための検討を進めるとともに、周辺観光資源を組み合わせた連携モデル。
観光スポット「青い池」
鳴子ダム(宮城県大崎市)
●日本人の技術者により造られた日本初のアーチダムで、推奨土木遺産。
●周辺には温泉、名勝、史跡等があり、農業遺産である大崎耕土も含めた流域連携モデル。
八ッ場ダム(群馬県長野原町)
●20年3月完成。建設中から見学ツアーが開催され、今年8月からは水陸両用バス「にゃがてん号」の運航が始まった。
●JR吾妻線の旧線を電動アシスト自転車でレールの上を走る「吾妻峡レールバイク アガッタン」の運行も。
天ケ瀬ダム(京都府宇治市)
●宇治市街地に近接。立地を生かし、DMOと連携したツアーを造成。淀川水系支流の高山ダムとの組み合わせなど広域連携モデル。
来島海峡大橋ほか(愛媛県今治市)
●しまなみ海道上の世界初の三連吊り橋であり、塔頂体験ツアーを開催。
●先行実施している明石海峡大橋のノウハウを取り入れ、長大橋のモデル。
鶴田ダム(鹿児島県さつま町)
●九州最大の重力式コンクリートダムで、水位低下時には明治期の発電所遺構が出現する。
●霧島連山や桜島などの広域周遊モデル。
白鳥大橋(北海道室蘭市)
●1998年に完成した東日本最大の吊り橋で、寒冷地における国管理の長大橋。
●2020年7月12日開業の民族共生象徴空間「ウポポイ」や登別温泉、クルーズが人気を集める室蘭港などとの地域連携周遊モデル。
日下川新規放水路(高知県日高村)
●日本最長級(5.3キロ)、かつ高度な技術を必要とする水路トンネルを現在工事中。仁淀ブルーなどの観光資源との連携を進めるとともに、工事現場の見学を通して、放水路、調整池などのインフラ施設と水害の関わり、歴史を紹介・学習する。