【特集】観光業界のインボイス制度

  • 2022年11月28日

開始まで1年弱 対応迫られるインボイス制度

 来年10月1日に開始するインボイス制度(適格請求書保存方式)だが、開始まで1年を切った現在も登録社数は低調に推移している。東京商工リサーチ(東京都千代田区)のデータをもとに、同制度の現状や今後の対応などについて解説、展望する。

インボイス制度が鍵に

 インボイス制度は税額控除に関する新制度で、所定の記載要件を満たした請求書を「インボイス(適格請求書)」という。インボイス発行には「適格請求書発行事業者」登録が必須で、所轄税務署から登録された事業者には「登録番号」が付与される。

 同制度開始に伴い、課税事業者は自社売り上げに課税される消費税を納税する際、仕入れ時に既に支払い済みの消費税分の控除を受けるためにインボイスが必要となる。そのため、仕入れ先がインボイスを発行できる事業者であるか否かを事前に把握しておくことが重要となる。仕入れ先がインボイス発行事業者未登録(非インボイス)の場合、仕入れ先へ支払った消費税が仕入れ額控除の適用外となり、消費税を多く納税しなければならなくなる可能性が生じるためだ=表。

 表中のケースでは、インボイス制度実施前(来年9月30日まで)は、販売先からの消費税(10万円)から仕入れ先へ支払った消費税(3万円)を差し引いた7万円が税務署への納税額となる。しかし同制度実施後(同10月1日から)は、仕入れ先が適格請求書発行事業者でない場合、税務署に納付する消費税から仕入れ額が控除されなくなるので、販売先からの消費税(10万円)を控除適用なくそのまま納税することになる。

 

IT導入補助金などを活用しインフラ整備も視野に

 東京商工リサーチが国税庁「適格請求書発行事業者の公表情報」などをもとに独自に分析した調査によると、9月末時点の法人の事業者登録は96万1918件、個人企業の登録は24万1792件で、国税庁が登録を見込む約300万件の半数未満にとどまっている。総務省「平成28年経済センサス」に基づく法人数は187万7488件なので、法人の登録率は約半数に達する一方、同調査での個人企業数は197万9019件なので、個人企業の登録率は約12%となっている。 同時点での都道府県別登録率は東京都が最多で57.6%、次いで山梨県(57.1%)、大阪府(56.2%)、三重県(55.5%)で、最も低かったのは秋田県で43.4%、次いで長崎県(44.9%)、神奈川県(44.9%)となっている。

 観光業界について、宿泊施設は食材や飲料、館内備品販売業者やクリーニング業者など、旅行会社は観光施設や交通・運輸業者、土産店や飲食店など、仕入れ先が多岐多種にわたる業界の一つでもある。自社のインボイス制度登録に加え、仕入れ先が同制度登録業者か否かが業者選定の大きな要因となることも想定される。また、現在補助率が引き上げられている特定ツール(会計ソフトや受発注ソフト、決済ソフトなど)を対象とした補助金(IT導入補助金)を利用するなどして、インボイス発行に係る社内の経理関連インフラの整備も進めておきたい。

 適格請求書発行事業者登録の申請締め切りは来年3月31日。制度開始後の経理実務や、取引先(仕入れ先)が非インボイス事業者である場合の想定を入念に行い、滞りなく同制度に対応したいところだ。

 インボイス対応に関連する「デジタル化基盤導入類型」(IT導入補助金2022)の詳細はhttps://www.it-hojo.jp/、会計等各ソフトのインボイス仕様への対応を含むデジタル化、DX化に関するサポートは「みらデジ」(https://www.miradigi.go.jp/)。

 

インボイス制度の賢い対応法1 青木康弘

 いよいよ来年10月1日よりインボイス制度が導入される。インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式をいう。消費税の申告は会計事務所に任せているので知らなくても問題ないと考える事業者が多いが、今回の制度改正は旅館・ホテルの日常業務にも大きな影響を与えるものである。

 また、情報システムの改修も必要となってくる。今のうちから理解を深め準備を進めておきたい。今回コラムでは、インボイス制度の賢い対応法について説明しよう。

 インボイスとは、適用税率や消費税額等が記載された請求書や納品書、領収書、レシート等をいう。これまでは、一定の条件を満たした請求書や領収書等があれば、消費税の納税額を減らすことができた。

 消費税は、原則として、売り上げに伴う消費税から仕入れに伴う消費税を差し引いた額を納税する。仕入れ代金の請求書や領収書等があれば、仕入れに伴う消費税を計上する根拠資料にすることができたのである。しかし、インボイス制度導入後は、原則として税務署に登録したインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)が発行した請求書や領収書等でないと仕入れに伴う消費税の根拠資料として使えなくなる。

 例えば、売上高1億円(消費税1千万円)、経費支払い6千万円(消費税600万円)とする。従来であれば、消費税の納税額は、400万円(売り上げに伴う消費税1千万円―仕入れに伴う消費税600万円)である。

 インボイス制度開始後に、インボイス発行事業者以外から仕入れを行うと仮定してみよう。経費支払い6千万円のうち、インボイス発行事業者から4千万円(消費税400万円)、それ以外の事業者から2千万円(消費税200万円)としよう。この場合の消費税の納税額は、600万円(売り上げに伴う消費税1千万円―仕入れに伴う消費税400万円)となり、従来と比べて200万円も増えてしまうことになる。

 もちろん簡易課税制度の利用の有無や仕入れ取引の内容等により、仕入れに伴う消費税として認められる範囲は異なる。また、経過措置としてインボイス発行事業者以外から仕入れても一定割合は仕入れに伴う消費税として認められるが、これまでよりも多く消費税を納税しなければならないケースが増加するだろう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

インボイス制度の賢い対応法2 青木康弘

 前回に引き続き、インボイス制度の賢い対応法について説明しよう。来年10月1日よりインボイス制度が導入される。インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式をいう。今回の制度改正は旅館・ホテルの日常業務に大きな影響を与えるものである。また、情報システムの改修も必要となってくる。今のうちから理解を深め準備を進めておこう。

 インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録は、少額の個人利用が売り上げのほとんどを占める小規模施設でなければ、必ず行おう。インボイス発行事業者が発行した請求書や領収書等(適格請求書)でないと、宿泊者は消費税分の控除を受けることができず損をさせることになるからだ。

 私費による宿泊であれば問題ないが、経営者が宿泊する高単価の施設や業務目的で宿泊する施設は、法人経費にするケースが多い。消費税の控除が受けられないと、他の施設に乗り換えられてしまう可能性がある。

 旅行代理店や団体等の法人先と取引している施設は、インボイス発行事業者の登録は必須だ。皆さまの施設が登録していないと、販売先が消費税分を自己負担することになる。事業者登録を取引の条件とする法人先も出てくるだろう。事業者登録の期限は、原則として2023年3月31日までなので、早めに登録しておこう。

 皆さまが仕入先と取引する際は、交通費等の一部の例外取引を除いて、適格請求書を受領して保存しておく必要がある。また、取引ごとに標準税率(10%)、軽減税率(8%)を区分して帳簿に記載(区分経理)しなければならない。このような煩雑な事務作業を敬遠して、仕入れに伴う適格請求書の保存や区分経理が不要となる簡易課税制度を選択する法人が多くなるだろう。

 簡易課税制度は課税売上高5千万円以下の法人が選択できる制度で、宿泊業であれば、課税売上に係る消費税額の50%ないし60%(みなし仕入れ率)を納税すれば良いというものだ(みなし仕入れ率は、泊食分離しているか否かにより異なる)。

 一見便利なものに見えるが、簡易課税制度は観光事業者にとって多額の損失を被るリスクがある。次回コラムでは、このリスクについて説明しよう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

インボイス制度の賢い対応法3 青木康弘

 前回に引き続き、インボイス制度の賢い対応法について説明しよう。来年10月1日よりインボイス制度が導入される。インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式をいう。今回の制度改正は旅館・ホテルの日常業務に大きな影響を与えるものである。また、情報システムの改修も必要となってくる。今のうちから理解を深め準備を進めておこう。

 インボイス発行事業者が発行した請求書や領収書等(適格請求書)の保存や標準税率(10%)、軽減税率(8%)を区分した帳簿の保存(区分経理)は、小規模施設にとって面倒なものだ。課税売上高5千万円以下ならば簡易課税も選択肢に入ってくるが、観光事業者にとってリスクがあることを注意しておきたい。

 一つが、設備投資に伴う消費税還付が受けられなくなるということだ。事業者における消費税の納税額は、課税売り上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を引くことで計算できる。高額の設備投資を行うと、仕入れに係る消費税が課税売り上げに係る消費税を上回ることになり、支払った消費税の一部が還付される。施設を増改築すると消費税の還付額が1億円を超えることも珍しくない。適格請求書の保存が不要な簡易課税の場合は、この還付制度が利用できないので注意しよう。

 もう一つが、人件費の割合が低いと簡易課税は損をするということだ。簡易課税では、課税売り上げに係る消費税額の50%ないし60%を仕入れに係る消費税としてみなす(みなし仕入れ率)。課税売り上げ4千万円、みなし仕入れ率60%ならば、160万円消費税を納税することになる(4千万円×(1―60%)×10%)。しかし、人件費の割合が低く、課税仕入れの額が3200万円(仕入れ率80%)ならば、一般課税では80万円消費税を納税すれば良いことになる(4千万円×(1―80%)×10%)。

 最近は、食事提供よりも客室の高付加価値化による単価アップを目指す施設が増えており、売上高に対する人件費率は低下していく傾向にある。インボイス制度への対応が面倒だからと安易に簡易課税を選択してしまい、逆に消費税の納税額が増えてしまうことにならないよう注意しよう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

インボイス制度の賢い対応法4 青木康弘

 前回に引き続き、インボイス制度の賢い対応法について説明しよう。来年10月1日よりインボイス制度が導入される。インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式をいう。今回の制度改正は旅館・ホテルの日常業務に大きな影響を与えるものである。また、情報システムの改修も必要となってくる。今のうちから理解を深め準備を進めておこう。

 課税売上高が1千万円以下の事業者は、消費税の納税義務が免除される免税事業者になることを選択できる。旅館・ホテルは、免税事業者と取引する機会が多い。インボイス制度導入後は、課税事業者とは異なる取引上の配慮が必要となるので留意しよう。

 免税事業者の取引先として想定しうるのが、少額の料飲材料や土産品、館内備品、消耗品等の物品を扱う事業者・個人、仲居や清掃係、調理係、ホームページ・OTA・SNSの運用等の役務を提供する事業者・個人である。

 物品を扱う免税事業者は、自らの仕入れに係る消費税を負担しているため、その分は取引価格に織り込まれる必要がある。例えば、税別の取引価格が10万円、取引価格に対する課税仕入れの割合が70%とすると、免税事業者は7千円消費税を負担していることになる。免税事業者からの仕入れだからといって消費税相当分を全く支払わないことは、相手先に消費税負担を強いることになり、優越的地位の濫用として問題になるだろう。

 役務を扱う免税事業者は、インボイス制度の導入前後で仕入れに係る消費税負担の影響は小さい。しかし、一方的に消費税相当額の値引きを要請することは、独占禁止法や下請法に抵触するおそれがあるので注意したい。

 同様に、免税事業者に対して、インボイス発行事業者になるよう登録を要請すること自体は問題ないが、要請に応じない事業者に対して一方的に取引価格を引き下げたり、要請に応じた事業者に対して消費税相当額を支払わず取引価格を据え置いたりすることは、独占禁止法や下請法に抵触するおそれがあるので注意したい。

 インボイス制度導入後に免税事業者と取引する場合には、見積価格が税別か税込みか、消費税相当額を支払うか否かについて、取引先とよく協議を行う必要がある。現在でも税別か税込みか判断できない見積書は少なくない。請求書を受け取った際に認識の齟齬(そご)が表面化しないよう、お互い確認しよう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
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