【特別寄稿】世界的需要高まるウェルネスツーリズム 琉球大学 国際地域創造学部 教授 荒川雅志


琉球大学 荒川雅志教授

 なぜ人は旅をするのか。その答えは旅に伴う新しい土地への好奇心が、われわれの遺伝子にまで組み込まれた本能であり、生存戦略のひとつだという説もある。旅先での見聞、体験、交流、感動は、ストレスを発散し心身の健康効用をもたらすとともに、豊かな人生、輝く人生の一部となる。人間の上位欲求を満たす旅はすなわちウェルネスな旅といえるだろう。

 ウェルネスとは、健康を身体の側面だけでなく広義に総合的に捉えた概念で、国家、人種、時代によって人々のライフスタイルと価値観も変容していくなかでその概念も変化してきた。心身の健康は基盤であり、その健康を基盤とした豊かな人生、輝く人生こそが目的、ゴールでありウェルネスである。自己実現に向けて何かに没頭する、生きがいを見つけ熱中している時、その過程すらも輝く人生の只中でありウェルネスである。新型コロナ感染拡大という未曽有の大災害を経て、安全安心、健康、医療へのニーズとともに、新しい生き方、働き方の岐路を模索、次世代ライフスタイルを志向するウェルネスのニーズは高まっている。

 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)×Trip.com Groupによる旅行、観光業界のトレンドおよび消費者動向レポート(2021年末)によると、短中期的には密環境の少ない「アウトドア旅行を求める傾向」が強いこと、「自然環境負荷を減らし、社会へより良い影響を与えたいという欲求」が高まり、世界中の旅行者の83%が今後は持続可能な旅行を優先すると回答している。

 世界ウェルネス協会(WTA)の調査では、旅行中にウェルネスアクティビティを行った旅行者は78%に達したと報告。セルフケアやウェルネス、ストレス解消により多くの時間やお金を費やしたいという欲求は今後も高まり、ウェルネスツーリズムも長期的な成長が予測されている。

 世界的に需要が高まるウェルネスツーリズムでの誘客には、日本の固有性を議論し、他の国々にはまねのできない真正の価値を提供する必要がある。日本が世界に対して優位に提供しうる最高価値のひとつは長寿世界一。日本の長寿とは、まちがいなく世界に誇るブランドとなり得る。

 わが国は温帯で穏やかな気候に恵まれ、四季折々の美しい自然と情緒にあふれ、四方を海で囲まれた島しょの多様性を育み、世界有数の温泉大国であり、地域固有の食材を有し、世界無形文化遺産に登録された和食、独自の発酵技術は海外の一流シェフたちに高く評価されている。

 豊かな自然、食資源に加え、世代を超えて受け継がれてきた歴史文化、伝統芸能、様式美の数々、「禅」「道」を究める精神性を備えるのも日本である。自然への対峙(たいじ)をみても、欧米は自然を「支配」「克服」していく自然観に対し、日本人は「畏敬」や「共生」の念をもって寄り添ってきた。台風や震災の多い国が故に育った精神風土「もろさ」「不完全さ」「不規則さ」「あいまい」「刹那」「はかなさ」「無常」などから、やがて「もののあはれ」「詫び寂び」「花鳥風月」「をかし」「雅」「粋」といった日本人特有の美的感覚、美意識を形成し芸術にまで昇華していった。

 世界の知識階層が、富裕層が、旅の達人であるほど、日本の「和」に魅了されるであろう。長寿世界一という統計的事実と、自然、社会環境因子、食文化、精神文化、日本的ライフスタイルと情緒をひもづけ、世界で優位な競争力を発揮できる”ジャパンブランドウェルネス”を確立することが今こそ期待される。

 アフターコロナの時代変化、需要に対応した新しいウェルネスツーリズムとは「人生に彩りを与える多様なウェルネス(輝く人生へのさまざまなアクション)があり、それらを旅行・滞在を通してウェルビーイング(よりよい状態)へ導く総称」と捉えることがふさわしい。


琉球大学 国際地域創造学部 教授 荒川雅志

 ※沖縄の美容と健康素材の研究で福岡大学大学院医学研究科社会医学専攻修了。医学博士。多様なプレーヤーが参画できるという新しいウェルネスの定義を提唱。ウェルネスツーリズム研究の第一人者。1972年福島県生まれ。

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒