
石橋氏
民営「かんぽの宿」の戦略
全33施設をリニューアル メンバーズカード会員60万人
――かんぽの宿「伊豆高原」「鴨川」のリニューアルオープンを10月23日に発表した。
「かんぽの宿は現在全国に33施設あり、安心して気軽に行ける温泉ホテルのご提供を心がけて運営している。地域の食材・文化を発信し、地域に貢献することを目指している。2018年から3年計画で順次リニューアルを進めてきた。鴨川は2021年3月、伊豆高原は4月1日にグランドオープンする。先に発表した赤穂の同2月5日、鳥羽の同4月16日と合わせて、一通りのリニューアルがほぼ完了する」
――かんぽの宿とは何なのか。
「元々は簡易保険加入者向けに作られた保養施設で、今年65周年を迎えた。第1号施設は熱海にあった。07年の郵政民営化により、日本郵政が運営する旅館・ホテルとなり、現在では簡易保険への加入の有無にかかわらず、どなたでもご利用いただける施設となっている。当時は63施設があったが、統廃合や売却等により、現在は33施設が営業を継続している。全施設で約1900室、年間利用客は約110万人、平均単価は1泊2食で1万2700円。なお、日本郵政というのは、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険等からなる日本郵政グループの持株会社だ」
――主な集客ルートについて。
「各旅行会社からもご送客をいただいているが、『かんぽの宿メンバーズカード』の会員が約60万人おり、リピーター比率が約50%と高いため、宿泊客の核になっている。入会費、年会費は無料で、かんぽの宿ウェブサイトから宿泊プランの予約と同時に入会することができる。会員限定の料理やプレゼントのご用意、かんぽの宿近隣の季節のイベントやグルメ情報などの情報を掲載した会員情報誌『旅タイム』のご送付、12時のレイトチェックアウト、ご利用料金の1%のポイント還元などの会員特典を提供している」
――昨年のインバウンド客比率は。
「全体の1%程度とかなり低い。今後のアフターコロナ戦略では課題の一つとなってくる点だろう」
――ウィズコロナでの感染防止対策は。
「3密回避など旅館ホテルが行うべき対策は全てを徹底している。密集が危惧される脱衣所やレストランにはオゾン除菌脱臭機を設置。除菌剤には医療・介護現場で10年以上の使用実績がある次亜塩素酸ナトリウム安定型の製品を使用している」
――来年4月にリニューアルオープンする、かんぽの宿伊豆高原の概要は。
「上質な時間と空間を感じていただくリゾート施設に生まれ変わる。高台にある立地を生かし、全室が伊豆の島々を望めるオーシャンビューとなっている。2万5千平方メートルの敷地に、延床面積8500平方メートルの建物。躯体はそのままにフルリノベーションを実施した。4階建てで、総客室数は以前の全59室から55室に変更した。プレミアム棟22室とスタンダード棟33室に分かれており、プレミアム棟のご宿泊客にはウエルカムドリンクやアテンドサービスなどを提供する。客室の広さは一般客室が50~70平方メートル、4室あるスイートは80~120平方メートル。スイートには天然温泉の露天風呂が付いている。夕食はライブキッチンでお楽しみいただく趣向だ」
――かんぽの宿伊豆高原の価格設定は、プレミアムルームが1泊2食(1室2人以上利用)で1人2万9900円から、スタンダードルームが同2万2200円からとなっている。かんぽの宿は、同レベルのハードを持つ宿泊施設と比べて価格設定が安すぎることはないか。01年に解散した年金福祉事業団のグリーンピア、07年に日本郵政に移管された郵政省の保養センター(現かんぽの宿)は、公営宿泊施設による“民業圧迫”ではないかと指摘され続けていた。
「郵政民営化以前は、簡易保険の加入者の利用を優先し、簡易保険非加入者には1人1泊あたり2100円が加算される仕組みだった。郵政民営化後から現在に至るまでは、63軒あった施設を33軒まで整理し、老朽化した施設をリノベーションすることで、競争力を高める努力を続けてきた。社内で料理コンテストなどを実施し、サービスレベルの向上にも努めている。全国33の施設は各自治体と災害協定を締結し、災害時の避難拠点としての役割も担っている」
※いしばし・えいいち=1985年郵政省入省。2015年4月日本郵政株式会社経理部担当部長。17年4月同宿泊事業部担当部長。18年4月から同次長(現職)。
【聞き手・江口英一】