【焦点課題】商船三井客船 代表取締役社長  山口直彦 氏に聞く


山口社長

「にっぽん丸」10年ぶり大改装 11月2日からクルーズ再開

 ――現在の経営環境はどうか。

 「にっぽん丸を10年ぶりに大改装した。4月にお披露目を予定していたが、新型コロナの影響で休止し、もう半年間動いていない。新型コロナ感染拡大以降は、時間を掛けて感染防止策を構築し、感染者が出た場合の対応への準備をしてきた。夏のピークは逃したが、11月2日からは国内の短いクルーズから再開している」

 ――どのような感染症対策を行っているのか。

 「クルーズ再開に当たり、日本外航客船協会の『外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン』を基に、当社独自の『新型コロナウイルス感染症予防対策マネジメントマニュアル』も策定し、日本海事協会の認証を取得した。(1)感染を持ち込まない(2)船内で感染させない(3)寄港中を含めてクラスターにさせない―ことが大きな柱となる。乗船前にはスクリーニング、検温、問診による確認などをし、お客さまに37度5分以上の発熱がある場合は、申し込み済みであっても参加の遠慮をお願いする。乗組員に関しても、乗船時にPCR検査を行うなど、感染症対策を徹底して行っている。船内では3密防止の観点から、クルーズの定員532人を約半数に。様子を見ながら今年度中に約6割まで上げたい。このほか、船内でのソーシャルディスタンスの確保、サーモグラフィーの導入、QRコードを使った着席位置の記録、一部イベントの中止などを行っている。衛生管理は、消毒、清掃の専門業者の指導を受けながら取り組んでいる」

 ――船内における検査体制は。

 「船内には船医が1人、看護師が1人常駐している。PCR検査は、検体の取り扱いなどの課題がある。使用が安全かつ短時間に結果を出せる抗原検査キットを積んでいる」

 ――今年度に発売している商品の見どころは。

 「コロナ禍で海外渡航が制限され、今は国内クルーズを運航している。これまで11月は主に海外に出ていたが、今回は今までできていなかった小豆島や香嵐渓など秋の紅葉の名所を巡る商品を造成した。12月は、1泊2日で気軽にクルーズが楽しめる商品『サンタクルーズ』を用意している」

 ――旅行会社との連携について。

 「クルーズはポピュラーになってきたが、説明が必要な商品であり、申し込みの8割が旅行会社を通してのものだ。今は売る商品がほしいという声を多くいただいており、連携を深めて企画、販売をしていく。にっぽん丸そのものが宿泊施設としての登録もできているので、Go Toトラベルキャンペーンを生かした利用も期待している」

 ――にっぽん丸の売りを三つ挙げるなら。

 「一つは食事。従来から評判が高く、10人以上の日本人シェフが、季節や行き先、その日の天候に応じた食材、メニューを提供している。二つ目は船の大きさだ。船の長さは165メートルあり、全国各地に寄港できる一方、船内でさまざまな過ごし方や催し物が楽しめる。三つ目は改装のテーマでもあった戦前からオーシャン・ライナーとして培われた船ならではのおもてなしの心で接客を行っている」

 ――改装のポイントは。

 「にっぽん丸は今年で30歳になる。大事に保守点検を行ってきたが、定期的に見直しが必要だ。今回は、発電機やエアコン、冷蔵庫、航海機器といったインフラ部分を中心に改修を行った。また、顧客層の多様化への対応として、3世代向けで1室最大6人のコンセプトルームを設けた」

 ――経営の課題は。

 「国交省によるクルーズ人口の発表では、2019年が35万7千人となり、ここ10年の20万人から伸びているように見えるが、クルーズはまだまだニッチ市場。タイアップの強化、デジタルを活用した発信を行うなど、魅力を告知していく努力が必要だ」

 ――獲得したい客層は。

 「従来のシニアで余裕があるお客さまを中心に3世代での家族旅行やインバウンドを増やしていきたい」

 ――今後どのように経営のかじを切っていくのか。

 「安全・安心に動くことが第一。分散してゆったりできる場所を提供するなど、新しい生活様式に適応した過ごし方を提案していく。また、インバウンドの復活を見据え、値段に見合った内容を意識している。欧米のカジュアルなクルーズ船のように、薄利多売のビジネスモデルは今後厳しいだろう。どんな体験価値を提供できるかが生き残りのポイントとなる」

 ――中長期の計画について。

 「いずれは新型コロナに対応する医療が出てくるはず。昨年まで右肩上がりで来た部分をそのまま点でつなげると、非常に将来性がある事業だといえる。親会社である商船三井でも数少ないBtoCの部門として、顧客の顔を直接見て、反応が伝わる大事な位置付けにある。グループ内のフェリーなどとも連携をより密に図り、事業を拡大していく」

 

やまぐち・なおひこ=1981年4月大阪商船三井船舶(現商船三井)入社。商船三井グループ事業部長などを歴任し、2011年6月に商船三井客船取締役に就任。2013年6月に同社常務取締役に就き、2016年6月から現職。

【聞き手・長木利通】

 
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